rider notes

BC-ZR750C乗りの残しておきたいログ

遠州灘|2.弁天島の御婦人

 遠州灘を狭義に捉えれば、その距離は約120Km。そう聞けば大した距離ではない。

 アワイチ(淡路島一周)で約150Km。ビワイチ(琵琶湖一周)でも約200Kmだから、関西だと十分日帰り圏内のお手軽コースと言える。

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 だから、今回ぼくが目論んでいる遠州灘も、たとえば静岡や愛知からだと余裕の日帰り範疇なのだろう。

 しかし、淡路島や琵琶湖にない「何か」が遠州灘には確実にあるのではないか。

 御前崎灯台で強い風に吹かれながら、海と空しかない、ただひたすら大きな景色を眺めていると、そう感じられてしかたがなかった。その「何か」とは、たとえば「こんな仕事どこにねじ込む余裕があるんだよ」とか「あの進捗はどうなってる」とか「何度言えば理解できるんだ」とかいった、要するに人生においては考えても考えなくてもどっちでもいいようなことばかりを要求される日常では絶対に補充できないものに違いない。それをぼくはひたすら吸収したいのだ。っていうか、どんだけストレス溜めてんだよ俺。

 御前崎灯台の目の前を遠州灘沿いに走る県道357号線(御前崎サンロード)もあっという間に海から離れ、今度は田舎らしく開けた景色の中でぐわんぐわん回る風車が何機も並んだ風景をひた走る。これだけ並んでるとちょっと近未来的ですらある。

 ほどなくR150に合流し、御前崎市役所のあたりから海側に折れて少し進むと、遠州灘の中でも大きな浜岡砂丘に到着。

だいたいこのへん

 四郎号を市営駐車場(無料)の端っこに止めてから見てみると、目の前から突然砂がどーんと盛り上がっている。

 砂丘なんて鳥取以来。まだ高校生だったテルくんやデンマークんたちと一緒だったな…あれは確かジョージさんのワンポイントを襲撃した日のことだったから……と思って調べてみたら19年前だった。ひえー。

 鳥取砂丘ほどのスケールはないものの、それでもしっかり「砂丘」だ。砂漠とどう違うのかという話はよく出るが、結局降雨量の問題だ(と記憶しているが本当のところはどうなんだろう)。駐車場のすぐ近くには河津桜の並木もあり、砂丘とセットで観光される人が多いようだ。

(消しゴムマジックで人影を消したわけではありません)

 再びR150に戻ってみたものの、遠州灘最大の川・天竜川を越えてもバイパスから海が見えるわけでもなく、家電量販店や大型スーパーや牛丼チェーン店や何が入っているのかよくわからない小さなビルやGSなんかが並んでいたり並んでいなかったりするフツーの地方都市の中をただ延々と無の境地で走るだけ。御前崎灯台と浜岡砂丘でせっかく補充できた「何か」なのに、ここらまでくると残量%ヒトケタ気味だ。ここは中島田の砂丘もパスして、一路浜名湖を目指して急ぐことにした。

 篠原というところでよけいに海から離れるR301にスイッチし、青い水が見えたらそこが浜名湖。懐かしい弁天島の駅前を通り過ぎてすぐにある看板どおりに進んだら、二輪車なら駐車場無料の海浜公園だ。

どーん

 やっと来ました弁天島

 思ったほど人もいないので遠慮なく写真をパシャパシャ撮ったら、あとは強い風で波立つ湖面に浮かぶ赤鳥居とその向こうの大きな橋と雲ひとつない大きな青空をただひたすらボーっと眺めることで、ここまでの前半戦ですっかり「何か」に飢えてしまっていたぼくは急速にそれを補充しようとしていたのかもしれない。

 意外と人も少なかったが、それでも湖畔の遊歩道にはカップカップカップカップル、そしてカップル。定番のデートスポットなんだな。時折風に飛ばされそうになる帽子を手で抑えながらバイクの脇で黄昏れているおっさんなどカップルにとったらただの舞台装置の一つに過ぎないから逆に気楽なもんだ。

 若いっていいねぇ…なんて思っていたら、年の頃はぼくと同じくらいのウォーキング姿の御婦人が通りすがりに四郎号のナンバーを覗き込む仕草で声をかけてきた。

御婦人「どちらからいらっしゃったの?」
御bar「大阪からです」
御婦人「まぁ! それは遠いところから。いい日に来られましたね」
bar「そうなんですか」
御婦人「昨日なんて一日中雨でしたもの」
bar「運がよかったです」
御婦人「バイク、お好きなのね。うちのじいさんもまだ乗ってるのよ」
bar「あら、御婦人のじいさんも乗ってるんですか」
御婦人「そうなの! もう74にもなるのに!」
bar 笑
御婦人「何度言っても、耳を貸そうともしないのよ」
bar「おとうさんの気持ち、わかります」
御婦人「ほんとにあの人は…。あらごめんなさい、せっかくのお一人の時間に。くれぐれも気をつけてね!」

 スタスタと去っていく御婦人を見送りながら、74までバイクに乗っていられるかなぁ…。なんだか久しぶりにセンチな気分になってしまった。

 あんなに青かった空は、傾いていく陽の光で少しずつ色を淡くしていく。気温も少しずつ下がってきてるし、そろそろ宿に向かうにはいい頃合いだ。

(つづく)