大学時代、友人たちと一緒に湘南に遊びにいったことがある。海に臨む道端からたくさんのサーファーや若い女の子たちで賑わうまばゆいばかりの海を並んで眺めていたとき、島根出身の友人は、「こう見ると(地元の)日本海ってやっぱり暗いんだよなぁ」と言った。
並んで海を見ていたメンバーは全員「やはりそうか。なんとなく陰鬱なイメージがあるな」と大同小異に言った。その後、島根どころか果ては稚内まで日本海沿いを何度も走ったが、やはりその友人が言ったとおりだったのだ。今でもぼくの中では「晴天よりは曇天がよく似合う、どこかうら寂しく荒々しい海岸線」というイメージだ。
今回、GWが偶然天気に恵まれそうだったので、そんな大昔の記憶が果たして本当だったのかどうかを確かめるべく、ぼくは山陰海岸へと旅立った。
ツーリングマップルを見ると中国道から分岐する鳥取自動車道とやらが知らぬ間に完成しているようだったので、それで簡単アクセス。
中国道に入ったところで、
GW恒例の事故渋滞14Kmに巻き込まれてしまい、高速道路なのにクラッチを握る左手が危うく逝きかけたりしながら加西SAの一つ手前にある社PAへ。何かと便利なのはSAなのだが、GWともなると大きなSAは朝からとんでもない人出で、朝の儀式すら落ち着いて執り行えないことが多い。
出発した頃の気温よりはいくぶんあったかさを感じてきたが、山間部を貫く中国道~鳥取道は油断ならじ。中国道は片側2車線あるからいいとして、鳥取道は無料区間のため予想通り片側1車線だった。
鳥取ICで鳥取道を下り、R29の渋滞に巻き込まれつつも「←鳥取砂丘はコッチ!」の看板に勇気づけられながら進むと、なんだか急に「THE 観光地」な雰囲気が満載。GWとはいえ、鳥取砂丘がこんなに賑わっているなんて……。四郎号と一緒に鳥取砂丘に来たのは2回目。1回目はたぶん15年前とかかな。その頃ここらはほぼほったらかし状態で砂丘以外はなーんにもなかったように記憶していたのだが。
人や車でえらい賑わいっぷりの中、とりあえず第1目標地点である「砂の美術館」に到着。
ふむふむ…エジプト展か…と特に何も考えず入館料を支払って中に入り、多くの人出に紛れて見て回りながら、精巧な砂像と、それを結実させた技術に感嘆したのだが、
ひと通り見終わり、美術館に付属する屋外の展望台から砂丘を遠望していて、ふと思った。
「なんでエジプト展とか見たんだ?」
今回は山陰海岸を辿るためにここまで来たのだ。ただ、ここで深く考えるのはやめておくことにした。おりしも時刻は12時、まさに昼めしドキ。おなかもいいかげんぺこぺこだったのだ。
しかし、残念ながら美術館からほど近いごはん屋さんはどこもかしこも長蛇の列。ここは潔く断念し、この先に飲食店があればそこで食事を摂ることとする。
考えてみればコロナ禍でさんざん我慢を強いられたこの数年だった。それは決して一般客だけではない。観光業や飲食業の方々には忍耐どころか死活問題だったんだから、ここらで一発ドカンと稼いでください! そして経済をぐるぐる回してください! といったところだ。
ぼくはぼくでエジプト展を見た謎を抱いたまま、山陰海岸は本当に陰鬱とした海なのかどうかを探るべく、ここ鳥取砂丘からスタートしたのである。
(つづく)