rider notes

BC-ZR750C乗りの残しておきたいログ

遠州灘|5.伊良湖岬へ

 浜名湖からリスタートした遠州灘走破は、R42をひたすら辿ればよい。

 R42は浜松を起点に渥美半島から海を経て伊勢に渡り、紀伊半島を海沿いへ潮岬をぐるっと回って和歌山市内まで続く国道だ。だから「和泉國からこんにちは」のぼくからすれば非常に馴染みのある国道なのだが、ここは和泉國から遠い遠江國。おまけに30数年前の記憶が正しければ、渥美半島のR42は突端あたり(=伊良湖界隈)までほんとになーんにもない田舎道をただひたすら走るしかない。そして実際に走り始めてみると、やっぱりぼくの記憶は正しかった。

 まだまだボケてなかったことに軽く喜びつつ今はまだ辛抱だと自分に言い聞かせながら1時間近く走って、やって来たのは太平洋ロングビーチ

 もうね。ここまでくると言葉が出てこない。

 強い風に吹かれながらあったかい陽射しに包まれてどこまで続いているのかわからない海と空を眺められる幸せ。弁天島海浜公園のときとは違って、風も緩やかなうえに太陽はますます上っていて、これからあったかくなっていく時間帯だ。オーバーパンツを脱いだ開放感もあって、ぼくはしばし景色に見とれてしまっていた。ときどき海鳥たちが緩い風に乗って気持ちよさそうに飛んでいる。地元らしきおじいの乗った軽トラとドライブ途中のセダンが1台ずつ、そしてアメリカンスタイルのバイクが1台来ただけで、あとは煙草を吸いながらずーっと波が浜を打ちつける音を聞いていた。これだよ。これなんだよ。

 ところでここ太平洋ロングビーチ遠州灘でも屈指のサーフポイント(らしい)。

 波を待つサーファーたちを見ていると、片岡義男の小説を思い出す。

伊良湖岬方面を望む

 すっかりぽかぽか陽気のなか、広大な遠州灘と遥か遠い水平線と青一色の空を十分すぎるほど満喫したら再びR42へ。

 道端のあちらこちらで咲き誇る黄色い菜の花に心癒やされながら進むと、突然だだっ広い駐車場が見えたので緊急停車。青さもここまでくると過充電かもしれないが、いくらでもカモーン!

 向こうから歩いてきたおじいちゃんが、一人でボーっと景色を眺めているぼくに声をかけてきた。ぼくは声をかけたくなるキャラなのか?

「石門に行くならここからだと遠いよ。もうちょっと行った先の右側に小さい駐車場があるから、そこからの方がはるかに近い」

 半信半疑ながらもおじいにお礼を言って坂道をぐいぐい上りながら進むと、工事している手前の右手に確かに小さい駐車場があったので片隅をゲット。

 道を渡ったところに看板が見えたので行ってみると、これまた急な下り坂。

下る途中にもこの景色

 何度も折れ曲がって急激に下る階段に一歩一歩足を進めながら「帰りはこれを上るのか……」とやや絶望を感じ、「おじい、ほんまなのか…信じてよかったのか…?」といまだ疑いを拭い去れないままおりきったところが日出の石門。

www.aichi-now.jp

 先哲たちの努力の賜物でいろんなことがわかってるから、今なら「はいはい。浸食でしょ」で終わっちゃうのだが、こういうのを見るたびに「なんにもわかってなかった頃に初めて見たら、とりあえず言葉を失って手を合わせて拝んじゃうだろうな」などと思いを馳せてしまうのはぼくの悪い癖だな。

ここからもたまらん景色

 おじいを恨みつつ(とは言え直線距離だと確かに先ほどの駐車場よりは近いのだろう)ひーひー言いながら急階段を上りきってはーはー言いながら駐車場で一服したら、伊良湖岬灯台、つまりゴールまではもうすぐ。案内板に従って進めば、そこが伊良湖岬の広い駐車場。

 やたらカランコロンと鐘の音が聞こえるのだが、ここは恋人の聖地で、いわゆる「恋人の鐘(?)」の音らしい。どこもかしこも恋人の聖地だな。インフレ起こさなきゃいいけど。

 さて、伊良湖岬灯台までバイクで行けるのはこの駐車場まで。ここからは自力で灯台に向かわねばならぬ。正直に言うなら灯台なんかよりもは大はまぐり焼きでも食べたいところだったが、ここまできて灯台を見ないのもゴールとして中途半端になってしまうから我慢して歩くことにした。

 途中ところどころで道が砂で覆われていて歩きにくいったらありゃしなかったが、それでも5分ほどすると見えてきた伊良湖岬灯台

 サイズは御前崎灯台とは比ぶべくもない(もちろん中にも入れない)が、ぼくは「ゴールだぁ…」とちょっと感慨深かった。

 フェリーが行き交う水平線を眺めていたら、御前崎から走ってきてずっと欲していた「何か」とは、要するに他とは比較する必要がないほどの海と空だけの大きな景色だったんだなと思えた。いうなれば「絶対的青碧」。夏になって空がもっと青く、もっと高くなれば、この絶対的な青碧も奥行きを増して旅人を癒やしてくれるのだろう。

海辺で黄昏れるおっさん一人

 さて、ここからは豊川まで戻って東名で帰るのも一計だが、それではあまりに味気ない。せっかく渥美半島まで来たんだから、もうかれこれ30数年ぶりに伊勢湾フェリーに乗ることにしよう。なんてったって伊良湖岬のすぐ裏手がフェリー乗り場だもん。乗らない手はない。調べてみるとちょうどいい時刻に出航する便があったので急がねば。大はまぐり焼きは割愛だな。

 伊勢は伊良湖岬からフェリーに乗れば約1時間で着く距離だ。三重は大部分が紀伊半島にあるのに中部地方なのだが、伊勢に渡ると気分的にはもう関西。3分の1くらいはもう帰ったようだもんだ。

 フェリーを下りて伊勢の街なかを走り、せっかくだから久しぶりに伊勢志摩スカイラインを走ってみるかと思い立つ。そういえば日産がネーミングライツをゲットして「伊勢志摩e-POWER ROAD」になった。どうもまだ馴染めないが、道じたいが特段変わったわけではないので気にすることはない。

 ここらへんも10年以上来てなかったかも。またこのあたりものんびり来たいな。

(おしまい)