ノクターンブルーの憂鬱

The void left by my BC-ZR750C D5 is forever, but I choose to look ahead and live on.

奈良|1.室生龍穴神社

 夏になる前、奈良・山の辺の道にあった大和神社を訪れたときのこと。

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 その境内にあった「高龗神社」で感じた風のような神気が心に残っていた。「あめかんむり」に「龍」と書く「龗(おかみ)」は水を司る龍神の古い呼び名で、高龗神(たかおかみ)は「日本書紀」にも登場する古い水の神だ。

 帰ってからも何となく気になったので調べてみると、同じ奈良には高龗神を祀る由緒正しき神社が点在しているという。しかも、日本三大龍穴の一つ、「妙吉祥龍穴」を奥社に抱える室生龍穴神社まである*1という。特に室生龍穴神社は古くから朝廷が雨乞いの祈願を行った地で、近くにある「女人高野」として有名な室生寺は室生龍穴神社の神宮寺として創建されたとも伝わっている。つまり、室生寺よりも歴史が古いということだ。

 大和神社参詣からは夏を挟んで少し時間は経ってしまったが、幸い天候にも恵まれそうな日があったので出撃してみた。

香芝SAにて

 名阪国道を針ICで下り、数台の車たちとの軽快な流れに乗ってR369~県道28号~R165~やまなみロードを辿る。そろそろ着くかなと思ってカーブを曲がったらいきなり視界に飛び込んできたのは、途中から二股に分かれて高く聳える大木だった。

電線がジャマですが

 意外なほどだだっ広い駐車場には数台の車しか止まっていなかった。

 着いてドアを開けた途端、峻厳にも感じる冷気に一瞬身震いした。これは果たして山の中の陽がなかなか照らない谷間だからなのか、龍穴神社の神域だからなのか。

 駐車場の脇にあってぼくを出迎えてくれた大木は「而二不二(ににふに)の御神木」。「而二不二」とは、文字どおりに読めば「2つであって2つではない」。つまり、この御神木が2つに分かれて2本あるように見えるが根では1つであるのと同じように、物事には2面あるように見えるが真実は1つであるということだ。自分に都合の良い面ばかりを見て、もう半面があることに気づけないこと、あるいは、気づいているのに気づいていないふりをしていることがあるかもしれない。そんな矛盾を抱えたまま生きる人間を、黙って諭してくれているのだろう。

 鳥居をくぐると、そこには自ずと静寂が身を律してくれるような空気があった。

 祭神はもちろん水の神である高龗神。拝殿の奥に本殿があるのだが、ここ室生龍穴神社では、水を司る龍神様が棲むと言われる龍穴のある奥社に行かねばならん。龍穴そのものが神の宿る場所とされてきたのだ。

 拝殿から奥社までの道のりは1.2キロ。調べてみると「軽いハイキングレベルの山道」とのことだった。車で奥社の近くまで行けなくもないようだったが、せっかく龍神様に会いにいくんだから自分の足で行こうと、今回はトレッキング用のシューズを履いてきたのだ。

 車道から山へ入るところに「800m先」の看板があった。傾斜はそれほどではなく、路面も一応舗装らしきことはされているうえ、適度にカーブしているからか、さほど疲れは感じない。

 むしろ、山の木々を揺する緩い風、どこか遠くから聞こえていた鳥の鳴き声が、上り始めてすぐにピタリと止んだことの方が不思議だった。

 途中にあった「天の岩戸」も、同じような伝説を持つ場所が日本各地にあるのは知っているのだが、この山の空気からすれば、「いかにも」と思えてくるから不思議だ。

 歩き始めて20分ほどしたら、どこかから水の流れる音が耳に届く。注意深く耳を澄ますと、どうやら左手の谷間から聞こえてくるようだ。すると、奥社への入り口に到着だ。

 鳥居をくぐると、目に飛び込んでくる約100段ある急な階段。

 一歩一歩注意して下りていくと、控えめではあったが、なだらかに水の流れる見事な滝があった。


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 そして立派に誂えられた遙拝所の真っ正面に、妙吉祥龍穴を拝むことができた。

 ここに来るまでに雨天で通行止めになったり、なぜか時間に追われてたどり着けなかったりすることがあるため、「たどり着けた人は龍神様に呼ばれている」「たどり着けないのはその時機ではないからだ」などと語られるという妙吉祥龍穴。ぼくは果たして呼ばれていたのだろうか。

 「招雨瀑(しょううばく)」と呼ばれる滝の水音に包まれながら、周囲の空気に全身を委ねるようにして目をつぶって深呼吸すると、とても清澄な空気を感じる。たどり着くまでに額や首筋にじわりと滲んできた汗が冷やされて嘘のように心地よい。

 そして、清冽そうな滝の水を見ているうちに、ぼくは気づいた。

 この水の流れこそ、龍神様になぞらえられてきたものなのだということに。

 そして、ぼくはもう一つのことにも気づいた。

 下ってきた100段ほどの急階段を、今度は上らなければ戻れないことに。

(つづく)

*1:他の貴船神社奥社(京都市)は非公開、備前龍穴は場所が判然としていない。