文殊堂
さて、どうにか気持ちを取り直して、ツーレポの執筆を続けよう。
根本中堂を出てふと目の前を見ると、今までほとんど見たことのない角度の階段があるではないか。
そして、ここでもbarイジメに快感を覚えてはじめたTちゃんが炸裂する。
Tちゃん「さ。上りましょうか」
bar「マジで?! ……この階段ってば、マジで45度あるんじゃねー?」
Tちゃん「何を言ってるんすか! はいっ! 行きますよ!」
そして、なんとTちゃんは一人で先に恐怖の階段を駆け上がっていくではないかっ!
bar「Tちゃぁーーーーん!」
さすがに僕は駆け上がるまでは無理だったのだが階段を上りきったところで、Tちゃんは両膝に手をついて、はぁはぁはぁはぁ言ってる。もう若くもないのに……。
さて、なんのために長くキツい階段があるのかというと、その上には文殊堂と呼ばれる、とっても古めかしい建物(まぁ全部そうだけど)があるからである。
その肝心の文殊堂は説明板もろくに読まなかったので、なんのためにあるのかわからないのだが、なんでも川端康成だか誰だかの小説の中にも出てくるらしい。由緒は正しそうだ(当たり前だ)。
僕たちは中に入ってびっくり。というのも、上にあがるための階段が、この状態。
なんだこの角度。さすがのTちゃんもビビッている。上がった先はまたまた撮影禁止だったが、その張り紙は見ないフリをしておいたら、Tちゃんは見逃していたのか今度は絵を描けとは言わなかった。ほっ。
ここらで僕たちは退散。ホントはもっと見て歩いてもよかったんだけど、それじゃぁ時間がなくなっちゃう。延暦寺は見たかったけど、延暦寺だけで終わっちゃうのはもったいない。
バイクにまたがって、さぁ出発! というときになって、Tちゃんがひと言。
「ダメです…。膝が…」
天罰である。
比叡山ドライブウェイから奥比叡ドライブウェイへ
そんなTちゃんと僕は延暦寺に別れを告げ、比叡山ドライブウェイを少しだけ戻り、山頂へと続く展望台を目指すことにした。さすがにこの時間(午前11時半)ともなると、ウインタージャケットを着た僕たちには暑い。おまけに実は期待していたほど琵琶湖がキレイに見えるわけでもない。
でも二輪用駐車スペースとは反対側だと、琵琶湖の端っこと、京都洛北に位置する大原(三千院とかで有名)の集落が見える。
ところが僕は見逃していなかった。展望台に向かう途中の方が、キレイに琵琶湖と対岸の町並みがキレイに見渡せるポイントだということを。
再びドライブウェイに戻ったところで、一人のおばちゃんに呼び止められた。青信号だから、いざ出発ってところで手を上げながらバイクに突っ込んでくる。あぶねーって。
おばちゃん「ちょっとーーーーーーー」
bar「なンすか! 危ないって! まったく…」
見ると、信号を少し越えた道端にワゴンRが一台。ちらりと見れば、中には誰も乗ってない様子。このおばちゃん、どーやら一人でのんびりと比叡山まで遊びに来たようだ。しかもとっても物静かな喋り方をする方だとわかったのだが、いかんせん四郎号のマフラーがうるさくて、何を喋ってるのかわからない。僕はしかたなくバイクを道路の脇に寄せてエンジンを切った。なんでも奥比叡ドライブウェイを通って横川(よかわ)に行きたいらしい。僕はさっき延暦寺で歩いているときに見て覚えた地図を頭に思い浮かべながら答える。
おばちゃん「いやぁ、ありがとね~。さっき根本中堂のあたりを歩いてたら、せっかく比叡山に来たんだったら、横川にも行ってみたら~? って言われたから」
bar「僕たちもさっき根本中堂に行ってたんですよ。横川も延暦寺の一部らしいですから、絶対におっきな看板が出てるし、すぐにわかりますよ」
おばちゃん「ホントにありがとね~」
僕たちも再出発。延暦寺を越えて程なくしてある改札所を越えると、道路は奥比叡ドライブウェイへ。
これがまた快適。有料道路だからこれくらいでフツーなのかもしんないけど、そのチョー快適な奥比叡ドライブウェイを走りながらも、さっきのおばちゃんの言ってた「横川」がちゃんとあるかどうかも気になっていたのでチェックすることは忘れなかった。あれくらいどでかい看板が出てたら、いくらのほほんとしたおばちゃんでもわかるやろ…と思いつつ。
やがて、奥比叡ドライブウェイもゆるやかな下りが続き、終点の風情が漂ってきた。始まりがあれば終わりがある。これが世の常である。
白鬚神社
快適だった比叡山ドライブウェイ、そして奥比叡ドライブウェイも終わりを告げ、少し田舎道を走って、仰木雄琴ICから、この夏無料化された湖西道路で一気にバビューンと距離を稼ぐことにした。比叡山の麓・坂本から雄琴を抜ける湖岸のR161は信号も多く、道もそんなに広くなく、おまけに交通量も多いからでもある。
それなりの流れで僕たちは軽快に湖西道路を最北端まで走りきり、次なる目標地・白鬚神社を目指した。湖岸のR161をしばらく北上すると、見えてきました。湖上に浮かぶようにして鎮座する赤い鳥居。そう。白鬚神社は、広島県の宮島にある厳島神社と同じなのである。違うのは海水か淡水か、だけ。
白鬚神社は、その社名のとおり、延命長寿・長生きの神様として知られ、また、縁結び・子授け・開運招福・学業成就・交通女全・航海安全など、人の営みごと、業ごとのすべてをぜ~んぶひっくるめて面倒みちゃいましょうという太っ腹な神でもあるそうな。祭神は猿田彦命(さるたひこのみこと)。
創建は1900年前。近江最古といわれる歴史を誇り、現在の社殿は豊臣秀吉の遺命により、その子・豊臣秀頼が片桐且元を奉行として造営したものだそう。本殿は正方形の明解な平面で、明治時代の拝殿再建の際、本殿に接続させたために現在のような複雑な屋根形式になっていとのこと。また、9月5、6日の例大祭には、京都・大阪を始め全国から多くの参拝者があるのだ。知らんけど。
また境内には、明星派の歌人である与謝野鉄幹・晶子夫婦が神社を訪れた時に詠んだ歌を刻んだ歌碑があったそうなのだが、俗世間で猥雑に煩悩とともに生きている僕たちはそんなことにはお構いなしで……と思ったら、Tちゃん、一人で深々と礼なんかしちゃったりしてお参りしてる。
bar「あれ? そんなに信心深かったっけ?」
Tちゃん「何を言ってるんですか。僕は大阪市内の猥雑なところで汚れきった生活をしてますから…」
執念深い。
Tちゃん「もうとっくに昼メシどきなんですが、ここはちょっと踏ん張って今津というところまで頑張って走りませんか?」
bar「おなかペコペコだよ。ここらへんで食うトコないの?」
Tちゃん「まぁ、そう言わず。これを見てください」
Tちゃんが差し出したマップルには、よだれの出そうなほどほくほくしたうなぎの蒲焼きの姿。
bar「うひょ!」
Tちゃん「でしょ? どうやら今津駅の近くにあるらしいんです。今津ならここからでも15分ほどですよ?」
bar「15分か…。ちなみにここらへんでうなぎが食えるところはないの?」
Tちゃん「まだ言いますか。今津まで走りましょう!」
bar「ちぇっ」
せいゆうじゃないよにしともだよ
白髭神社からホントに20分もしないうちに、R161のバイパスを北上した僕たちは、いつの間にやら今津駅に到着していた。
駅が近くなってからは速度をぐんと落として、目指すうなぎ屋さんである「西友」を探したのだが一向に見つからない。すると、Tちゃんが「ちょっと待っててくださいね」とひと言を残して、いきなり走り去ってしまった。
「ちょっと」と言うから僕はバイクの横に座り、駅前の様子をぼんやり眺めながらタバコを吸って待っていたのだが、いっこうに帰ってくる気配がない。
駅前は今じゃどこでもそうなんだろうけど、さびれてるとはいわないけど、どこかまったりとした時間が流れている。平日ってこともあるから余計にそうなんだろうが、客待ち顔のタクシーの群れが、ちょっと異常な感じだった。
ようやくTちゃんご帰還。
「いやぁ探しました探しました。ありましたよ、西友。商店街の中でした」
よく見たら駅前からアーケードが伸びている。バイクでそろりそろりと徐行しつつアーケードの中を覗いてみると、大半のお店がシャッターを閉めていて、人気もあまりなさげ。ときたま軽トラックがぶるる~んと走っちゃてたりして。
僕たちもお店にバイクを横付け(許可はもらいました)。バイクを止めてヘルメットホルダーにヘルメットをかけたり荷物を降ろしたりしているうちに、まるで僕たちを歓迎するかのように、お店の奥からはうなぎの焼いている香ばしい匂いが…。
bar「はぅ…」
Tちゃん「犬じゃないんですから…」
川魚の西友(「にしとも」)は、1階ではごく普通にお魚(といってもやはりうなぎが主流)を売っていて、食事は2階で。階段を上がって通されたのは4人用の個室。といっても2階は見たところカウンターなどはなく、すべて個室形式になっている様子。
通された個室でぼくはひつまぶしを、そしてなんとTちゃんは「うなぎ大王」なるブツをオーダー。「うなぎ大王」は写真を見る限り、ご飯の上にど~んとうなぎがまるごと1尾のっかってる…。
さて、料理は注文があってから作り出すので、まだまだ時間がかかりそう。おまけに入った時間(1時半頃)は禁煙タイムなのでタバコも吸えない。しかし僕たちは次なるルーティングに余念がなかった。
bar「なぁTちゃん」
Tちゃん「なんです?」
bar「琵琶湖一周はやめよーよ」
実は時間があれば琵琶湖一周を強行しようか…とまで目論んでいたのだが、今のペースじゃムリだ。
Tちゃん「…そうですね」
bar「その代わりといっちゃぁなんだけど、温泉入って帰ろうよ」
Tちゃん「いいですねぇ…」
ところが今津からだと手頃な温泉がない。北に行ってもなさそうだし南にしても雄琴まで行かないとなさそう。今ここでたらふくうなぎを食うとしたら、できるだけ近い方がいいに決まっている。
Tちゃん「じゃぁ僕の必殺・iモードで調べますか…」
と近代文明の利器であるケータイでピコピコやってくれたが収穫なし。
温泉はなかば諦めムードになってしまい、とりあえずR303から鯖街道と呼ばれるR367で朽木~大原~京都市内と抜けるルートだけ決めておいた。
あとはうなぎちゃんが出てくるのを待つだけ。うひひひひ……。
(つづく)