プロローグ
琵琶湖ツーリングもいつの間にか残り数日に迫ってきたとある日。
もうかれこれひと月は連絡をとっていないTちゃんの携帯にメールをしてみると、Tちゃんから返信がきた。
「ここんところ、体調崩したり仕事がわんさか増えたりして、なんだかんだいって忙しいのでルーティングがほとんどできてません…。ウインタージャケットも着ていきたいけど、ツーリング前日にしか買いにいけません…」
ルーティング大魔王がルーティングできないほどの激務。よほどのことなのだろう。僕はTちゃんをいたわるメールを送ることにした。
「そっかぁ……。よっぽど忙しいんやなぁ……。じゃぁルーティングよろしく」
指が勝手に動いたのである。
そして前日、今度はTちゃんから僕の携帯にメールが。
Tちゃん「今ドラスタの二輪館に来てるんですが、62000円の革ジャンにしようか21000円の合成皮革のジャケットにしようか、とっても悩んでます」
bar「何を買ったかは絶対にメールしてこないように!」
数時間後、仕事中の僕のケータイに入っていたメールにはこう書いてあった。
「結局○★●&£を買いました。ついでに□△$≠◎も買いました。あと▲@℃◇§も買おうかなぁと迷ってます」(原文のママ)
もちろんツーレポのプロローグに使うために報告を禁止したのであるが、こう書かれると無性に知りたくなってしかたなかった。
待ち合わせ
さて当日。
待ち合わせは阪神高速15号堺線にある住之江入口に7時だったが、僕が到着したのは6時58分。時間前に行くなんて奇跡。
いつぞやの丹後ツーリングでは住之江入口で待ち合わせていたものの、見事に僕は見落とし、結局一つ北にある玉出入口で待ち合わせるハメになったという苦い思い出のある入口だ。
少ししてTちゃん到着。そこには、スクーターツアラー時代とは似ても似つかぬダンディTちゃんの姿があった。
どうやら悩んだ末に買った「○★●&£」とは革ジャンであり、
ついでに買った「□△$≠◎」とはウエストパウチであったらしい。
残りの▲@℃◇§だけはどれなのかはさっぱりわからなかったのだが、これみよがしに「GREEDY」のエンブレムを見せつけるTちゃんはかなり誇らしげだ。はは~ん。「GREEDY」のビキニパンツだな、きっと。
ぴったり7時に集合した我々であるが、いつもなら僕の「腹減った攻撃」によりすぐさまコンビニに突入するのだが、待ち合わせた住之江入口付近には入れそうなコンビニが一軒もない。珍しくすぐさま早速高速に乗ってバビューンとまずは京都を目指すことにした。
今回のツーリングでは、比叡山ドライブウェイを満喫した後、世界遺産・延暦寺を見学するということしか決まっていない。ルートはとりあえず阪神高速11号池田線~豊中~名神高速。下り口を京都東にするか大津まで行くのかをま~ったく考えていなかったため(この日はマジでTちゃんってばルーティングしてなかった)、とりあえず京都市内に入ってからいつもの桂川SAで休憩することだけ決めていたのだ。
ところが豊中から名神に乗ると、なんと吹田にPAがあるではないか。休みたいなーと思っていたら、前を走っていたTちゃんが何やら手で合図している。どーやら吹田SAに入りたいらしい。しょーがねーなー♪
SAの駐車場の片隅に急いでバイクを止めたTちゃん。バイクから降りるなり、やおらシートバッグから工具を取り出すと、ミラーをくるくるきゅるきゅるやってる。
「ミラーがぐらぐらして、なかなか全然ポジショニングできなくて」
ついでに二輪駐車スペースにバイクを止めて休憩。Tちゃんと交互にトイレで朝の行事を済ませたり缶のコーンスープを飲んで暖をとったりと、思い思いに過ごした。このあたりで時刻は8時過ぎ。まだ少しだけ寒さが残っているものの、陽が昇るにつれて少しずつ空気があったかくなっていく予感もあったりする。お互いここで給油を済ませて、一路レッツゴー。
次に着いたのは桂川SA。ちょっと暖かくなった中、ここで名神高速を下りるICを決めなければならない。
Tちゃん「ちょっと待ってくださいよ」
とシートバッグをごそごそ。ベンチに先に座って自分の古いツーリングマップルを見ていた僕の横にどっかりと座ったTちゃんが「僕のマップルの方が新しいし詳しいですよ」。その言葉にふとTちゃんを見ると、
bar「それツーリングマップルとちゃうやろ」
Tちゃん「それがなにか?」
bar「そんなマップルをツーリングに持ってくるとは…」
Tちゃん「シートバッグに余裕で入りますからねぇ。しかもツーリングマップルの4.7倍は詳しいですよ」
bar「4.7倍?!」
Tちゃん「概算です」
Tちゃん持参のマップルで確認してみると、京都東ICで下りてR161のバイパスに入るのが最短と思われたが、どうやら比叡山ドライブウェイに向かう府道とは高架で交差してしまっているような気配。大津ICで下り、大津市内を抜けてR161(バイパスではない方)に入れば比叡山ドライブウェイに向かう府道に乗れそうだ。しかし大津市内の渋滞がイヤ。
Tちゃん「仕方ないから京都南で下りて、京都市内を抜けましょう」
bar「アイアイサー!」
京都市内からなら比較的わかりやすいので市内の渋滞も我慢ができるというものだ。案の定、京都南ICはものすごい車の数。京都南ICは京都市内へ直結するR1へとダイレクトなだけでなく、高速の出口なのに2車線しかないことで慢性渋滞地点として関西では知らない人はいない。とはいえ、いったん下りてしまったものはしかたがない。ここはぐっとこらえてR1へ。
それにしてもいい天気だ。でも走っているうちは風による体感温度はかなり低いハズ。しかし僕もTちゃんも今回はウインタージャケットを着ちゃってるから平気なのだ。僕たちは京阪国道口を右に折れ、東寺の塔を左に眺めながらR1を進む。
Tちゃん「こういうお寺が見えてくると、京都に来た! って感じますよね」
僕たちはR1を左折せず、そのまま直進。東大路通を進むと、五条で高架になったR1の下をくぐる。五条で清水寺、四条で祇園や八坂神社、なんてのをTちゃんに教えてあげると、それだけで「おーっ」なんて言ってくれる。
比叡山ドライブウェイ
そうこうしているうちに京都大学を越えて右折すると府道30号線、いわゆる「山中越え」へ(道路標識にも「山中越え」と書いてある)。白川通を越えると、あとは少しずつ上りながら狭くなっていく。極端に交通量も減っていき、快適。すると見えてきました「比叡山ドライブウェイ」の看板。
無人の田の谷峠料金所でチケットを取ってようやく着いたことを実感。そこからは有料だけあって、それはそれは快適ロード! ナニゲないところでゆる~いカーブだぞー…と思わせておいてヘアピン! とかあったりして結構楽しいぞ。
延暦寺
そのうちあっという間に延暦寺に到着。
比叡山延暦寺は京の都の鬼門除けが発祥と言われている、伝教大師・最澄が開いた天台宗の総本山。駐車場にバイクを止めてから一服し、早速僕たちは拝観料(550円)を払って境内へ。まずは、大講堂へと足を運ぶ。
中も見られるようになっている(土足厳禁)ので、僕たちは早速中に。
ここら一帯は、織田信長による比叡山焼き討ち直前、延暦寺僧兵・浅井・朝倉連合軍の本陣だったそうな(後日のTちゃん歴史講座より抜粋)。第1駐車場から来るとすれば、まさしく第一歩を踏み入れるのはここ。本陣となってもおかしくない。現に威厳すら感じる建築物だ。
独特の雰囲気。さすがは、真言宗と並んでわが国の宗教を形作ったといってもおかしくない天台宗の総本山。それくらいでも普通なんだろう。ちなみに、一遍(時宗)、親鸞(浄土真宗)、日蓮(日蓮宗)、道元(曹洞宗)、栄西(臨済宗)、法然(浄土宗)といったオールスターキャストが、ここ延暦寺で学んでいたという事実もすごい。そんなことなんかも、親切なお坊さんがマイクを持って静かな口調で訪れる参拝者たちに中の説明をしている。
僕たちはお焼香とお賽銭でお参りし、お守りを物色。僕は家族一人ひとりへの干支にちなんだお守りを、Tちゃんもお守りをゲットして、境内を散策しつつ根本中堂へと向かうことにした。
Tちゃん「あのぅ…」
bar「なに?」
Tちゃん「これってなんて読むんですか?」
そこには「根本中堂」と書かれた大きな看板。
bar「あ、コレね。これは『ネモトちゅうどう』って読むんや」
Tちゃん「そうなんですか」
bar「昔ここにはネモトさんという、それはそれはえら~いお坊さんが…」
Tちゃん「……ちょっと待ってください」
bar「なに?」
Tちゃん「どうも、この流れは、そのまんまツーレポのネタになりそうな予感が」
bar「げっ」
Tちゃん「やっぱり。ということは『ネモト』じゃなくて『こんぽん』なんですね」
どうやらそろそろTちゃんには、もう通用しないようだ。
中に入ろうとする(ここも土足厳禁)と、「写真撮影厳禁」の張り紙。ひと通り見終わった後で、Tちゃんが僕に、
Tちゃん「見ましたか?」
bar「ん? 何を?」
Tちゃん「写真撮影厳禁って書いてたじゃないですか」
bar「あぁ。書いてたね」
Tちゃん「でも、やっぱりなんとかして根本中堂の中身は、ツーレポを読んでくれてはる方々にも見せてあげたいですよねぇ」
bar「まぁ、そうだねぇ」
Tちゃん「当然ツーレポには、barさん直筆の根本中堂の絵がアップされるんですよね」
Tちゃん反撃。
おぅおぅ。書いてやろうじゃないの! ご要望にお応えしようじゃないの! では、bar自筆の根本中堂をご覧ください!
(ToT)
(つづく)