RIDER NOTES

BC-ZR750C乗りの残しておきたいログ

新緑|2.高野龍神スカイライン

 蟠龍庭を見るところまでは決めていたのだが、その後はノープラン。空を見上げると、雨が降り始めるまでにもう少し猶予がありそうな気配だった。降雨予想だと雨の降り出す予想だった3時が6時になっている。延命だ。そして前回なんとなく走った中辺路での「快走路はやっぱり快走路」を思い出し、数年ぶりに高野龍神スカイラインを行けるところまで行ってみようかと思いつく。

 腹が減っては戦はできぬ。高野龍神スカイライン42.7KmにGSは一つもないのだ。自分のメシはどうにかなるだろうからいいが四郎号はそうはいかぬ。大門近くのGSまで一旦戻り、そこからR371のバイパスへ。

 やがてスカイラインに合流したら、多少のアップダウンを繰り返しながら少しずつだが確実に標高を上げていきつつ、適度なカーブをひら〜りひら〜り、する〜りする〜りと走り抜けていく。

 高野龍神スカイラインは雑誌にも必ず出てくる日本屈指のツーリングロード。実際に走ってみるとこんなに気持ちいいのに、ぼくが高野龍神スカイラインをつい避けてしまうのは、遠くの景色にばかり目を奪われて自分の前後にいる車やバイクがまるで見えていない時速20Kmのお花畑な車と、ガンガンに煽り倒してきた挙げ句にブラインドカーブで外から被せるように抜き去ってかっ飛んでいくバイクガチ勢という極端すぎる交通状況に心身ともに疲弊してしまうからだ。

 しかし、今日は前にも後ろにも車はおろかバイクに至っては1台もいないという奇跡的な日(実際には写真を撮っている間に走り抜けていった車が確か合計3台ほど)。前日までの雨と、今日の「一日中雨予報」のおかげだな。

 目にも眩しい新緑に身も心も癒やされながら、900m、1000mと標高を示す小さな看板を越えて道の駅が見えてきたのだが、ごまさんスカイタワーのてっぺんあたりは何やらえらい霧模様。雨じゃなければいいけどなぁと思いつつ到着。

案の定、ライダーはぼく一人

 到着して見ていると霧はみるみる流れていったのでひと安心。

ライダーのみんな、気をつけよう(信貴山の二の舞いだけは避けたい)

 ここで愛する奥様からのメッセージ着信に気付いた。

愛する奥様「大丈夫?」

 久しぶりのバイクに浮かれてしまい、そういえば家を出てから連絡してなかった!

bar「す、すびばせん! 生きております!」

 するとすぐに返信が。

愛する奥様「雨が降る前に帰るんだよ~」

bar「御意!」

 愛する奥様のお達しは絶対である。

 さて、時刻は予定通り12時半。予想より少し肌寒い。標高1000mオーバーを軽く考えていた己を恥じつつ、道の駅の2階にあるレストランで何かあったかいものでも食べようと向かってみると、階段に「2階イートインスペース。ご自由にどうぞ」の貼り紙。

 あれ? イート……イン? レストラ……ン…じゃなくて?

 1階にいたお姉さんに尋ねてみると「今はもうやってないんです」との申し訳なさそうな表情。

bar「そうなんですか…」
お姉さん「はい。もう4年ほど前から」
bar「4年?!

 容易に想像はつく。4年前の2020年はコロナ禍のスタートだった。緊急事態宣言が日本で発せられ、GWはどこにも行けなかった。しかし、コロナがなかったとしても、4年は何かが変わるには十分すぎる時間だということだ。前に来てからそんなに時間が経ってたのかと、なんだかちょっとしんみりしてしまった。

 小さなレアチーズケーキを一つだけ買ってイートインスペースへ。今はもう使われていないひと気のない厨房が衝立の向こうに見える、他に誰もいない2階の隅っこにぼくは座った。レアチーズケーキを一口頬張ると、切なさのあまり、見下ろしていたはずの景色がぼわっと滲んで見えなくなり、ケーキはなぜかしょっぱかったのである。

 というのは全部ウソで、レアチーズケーキが大変美味だったことをつけ加えておこう。

 しかしながら、小さなケーキがお昼ごはんの代わりになるかと言われると、それは断然ノーと言わざるを得ない。途中で「barちゃん、お腹ペコペコで、もうム…リ……ガクッ」なんてことがないようになるべくお店のありそうなルートを選択するとなると、自動的にR371→R425→R424で有田方面へ抜けることになる。地図の上では紀伊半島の西半分の山の中をぐるぐる走り回るようなコースになるがやむを得まい。

 しかし、あれほど腹が減っていたというのに、ごまさんスカイタワーからぐんぐんと標高を下げて明らかに気温も戻ってくるのがわかると走るのが楽しくなって止まるのが面倒に思えてしまい、高野龍神スカイラインをすっかり下りて龍神界隈にあった道の駅や数件のレストラン、食堂を全部パス。

 そのうち、いかにも清冽な日高川と並行する道(R424)が気持ちよくなり、すらすらひらひらと走ってしまう。

 そんな日高川もみるみる水量を増していき、こりゃダムだなと思ったら、

 ヤッホーポイント発見。

 叫ぶかどうかはおいといて、四の五の言わずにまずは渡れと言わんばかりの吊り橋を歩き始めてみるとなかなかの景色。

 そして、向こう岸に「ヤッホーポイント」と書いたドデカイ看板。

 ヤッホーポイントは向こう側か。ならば行くしか……と思って、ふと足元をみると、血の気も引くほどの高さ。これはいかん、と無念ながら途中で撤退することにした。すると、戻っている途中で背後から聞こえる「ヤッホー!」の声。ほんまに叫んでるやつおるやん。

 四郎号に戻って呼吸を整えていると、還暦は余裕で超えているであろうオジイオバア軍団総勢20名ほどが橋を渡ってきた。そして口々に「ヤッホー! って気持ちよかったね~」とか言い合っていた。叫んでたんは、あんたらかい。

 そこから再びR424を出発。見えてきた道の駅も止まる気はゼロ。ほとんど信号も交通量もない快走路を新緑を浴びるようにひたすらするするするする~っと。

 少しずつ人家が見えてくると寂しさは募るが、すっかり有田川町の街に入ったら県道22号線にスイッチ。

 阪和道に乗る手前にあったコンビニで結局ホットスナックとホットラテで空腹をごまかす。

一人だと食い物なんて結局こんなもんだ

 高野龍神スカイラインにしろR425~R424にしろ、やっぱり気持ちいい道は気持ちいい。

 そして、雨が降り出す前に帰宅するミッションはコンプリート! だったのは言うまでもない。

(おしまい)