rider notes

BC-ZR750C乗りの残しておきたいログ

伊勢|1. Tちゃんとの戦い

プロローグ

 阪神高速オービスに強制的記念撮影を撮られてしまったTちゃんがなんとか禊を済ませたというところで、僕たちは日々連絡を取り合いつつ、1月31日の天気予報にチョー敏感になっていた。

 あと数日でツーリングというある日、ネットを見ていると、こんな記事が…。

来週は今冬一番の寒波 気象庁が注意呼び掛け

気象庁は27日、日本付近は30日から2月3日ごろにかけて今冬一番の強い寒気が入り、特に西日本では最高・最低気温が平年より5度以上低くなる所があるとして、強い寒波に関する気象情報を発表し、注意を呼び掛けた。雪の影響による交通障害のほか、積雪が多い地方では雪崩発生への注意が必要。平年よりかなり低い気温が続くため、農作物の被害の恐れもあるという。
気象庁によると、日本付近は29日に気圧の谷が通過した後、上空約5000メートルで氷点下40度以下の強い寒気が南下する見込み。西日本から北日本日本海側は雪が降り続き、山沿いの地方を中心に降雪量が多くなる所があるという。

共同通信) - 2005年1月27日19時53分更新

ヾ( ゚д゚)ノ゛ハァァァァァ・・・・・・・

 よりにもよってツーリング前日から寒波が来なくても…と思いながらも、Tちゃんと予定を立てて雨でオナガレになったことも数知れず。雨よりはマシか…とお互いを慰めあいながら、当日を待ったのである。

 前日は仕事もテキトーに切り上げ、夕方に帰宅した僕は9時過ぎにはご就寝。朝5時に目覚ましをかけていたが、目覚ましが鳴る前にちゃんと目が覚めた。なんでこんな時に体内時計は正確なのだろうか。仕事の日には電池切れしているというのに。

グローブゲット

 まだ真っ暗な中、待ち合わせの西名阪道・香芝SAに向かったのであるが、さぶっ! 手がガチガチ。西名阪道藤井寺ICから高速に乗ろうと約1時間半をず~っと走った外環(R170)の信号で止まるたびに空冷フィンを手でわしづかみ。それでも再び走り出せば、ものの数秒でまたまた冷え冷え…。

 僕の防寒装備はナカナカのものなのだが、唯一の弱点はグローブ。僕は昔から「グローブなんて一年中おんなじモノを使えばいいじゃん」みたいな考えがある。だから冬のたびに、さびー思いを散々してきた。

4年モノ

 香芝SAに到着したのは6時45分。さすがに夜も徐々に明けてきたが、それでも寒いモンは寒いっ! たまらず本日一本目の缶ポタージュスープ。と思ったら、Tちゃんも到着。

Tちゃん「さぶいッスねー!」
bar「ここは八甲田山か?!」

 と挨拶もそこそこにTちゃんのマジェを見ると、なにやら見慣れないモノが…。

bar「何コレ?」
Tちゃん「見たとおり、ハンドルカバーです」

 聞くと今回の超極寒ツーのために、万全なる防寒装備を取り揃えてきたそうな。

bar「やっぱしコレってすごい?」
Tちゃん「ビビりますよ。手は灼熱です」

 挙句の果てにTちゃんはグリップヒーターも装備。これなら最高のハズ。ダウンジャケットに防寒ズボン、靴下2枚。

Tちゃん「まぁ僕の弱点はスニーカーですかね」
bar「オレの弱点はグローブやな。すでに手は死んでます…」
Tちゃん「あ。じゃぁ僕の冬用のグローブ貸しましょうか?」
bar「え?」
Tちゃん「僕にはグリップヒーターとハンドルカバーがありますから」
bar「...あ、そ…」

 そんなこんなで出発する頃には高速の灯りも消え、本格的に朝がやってきた。僕らは寒さに立ち向かっていくぜ!

 という気合は走り始めて10秒しぼんだ。とはいえ、ショボンとしてもしかたがないので、そのまま西名阪から名阪国道へ。車の流れは相変わらず速い。いつもならスイスイ行くところなのだが、いかんせん気温が…。こりゃ氷点下だわ…と思いながらも、Tちゃんからちゃっかり借りた冬用グローブの威力を思い存分堪能しつつ、申し合わせた道の駅 針T.R.Sへ。

 

Tちゃん「さっきの電光掲示板、見ました?」
bar「全然」
Tちゃん「気温が出てました」
bar「そーなん?」
Tちゃん「-2℃だそうです」
bar「……もう帰ろうか? 今日は針T.R.Sツーリングってことで......」

 Tちゃんに励まされて気だけは取り直したのだが、挙句の果てにそのうち雪まで降ってくる始末。いかんせん朝も早いこともあって、売店すら開いてない。缶コーヒーだけを買って、休憩所に入って暖房にあたる。

bar「あったけー!」

 これほどまでに暖房をありがたく思ったことがあっただろうか...。グリップヒーター&ハンドルカバー連合軍司令官・Tちゃんも休憩所でほっこり…。しかしいつまでもほっこりしてもいられない。僕らはファイトーッ! いっぱーつ! 再び氷点下の名阪国道を突っ走ることにした。

伊賀街道

 上野を越えた中瀬ICでR163に下りる。

(晴天だけが唯一の救い)

 現在の上野市を中心とした昔の伊賀国は、伊勢(三重県)・近江(滋賀県)・山城(京都府)・大和(奈良県)に囲まれた山国で、上野盆地に入るためには、どの道を通っても険しい山を越えなければならなかった。また同時に、伊賀国を通らなければ相互の連絡に不自由するという交通の要衝でもあったわけだ。

 伊勢国伊賀国にまたがる伊賀街道は、津から橡ノ木峠とも呼ばれた長野峠を越えて上野に至る全長約12里(約50km)の街道で、現在の三雲町の月本の追分を起点とする奈良街道(古くは「伊賀越奈良道」)と重なる部分が多い。道は現在の国道163号に沿う形で通っており、今でも国道沿いのあちこちに、かつての街道の面影が残っているらしい。

 津城下を出発し、長野峠、上野、島ヶ原と抜けるこの街道は、東海道のような主要幹線道ではなく、京、大和、山城方面と伊勢神宮を結ぶ参宮の道としての性格を備えた地方路のひとつに過ぎなかったのだが、慶長13(1608)年に藤堂高虎が伊勢・伊賀二国の大名として移封され、津を本城に、伊賀上野を支城にしたため、津を起点に藩のふたつの拠点を結ぶ藩内の最も重要な官道として整備された。これが現在の伊賀街道だ。

 この街道は、上野経由で伊勢に向かう参宮の旅人が利用していたが、参宮道や官道としてだけでなく、津方面からは水産物や塩が、伊賀方面からは種油や綿などが津へと運ばれ、その一部は江戸まで船で運ばれるなど、伊賀・伊勢両国の物資や人が行き交う経済・生活の大動脈としての役割も担っていた。このため、街道沿いは宿場を中心に賑ったといわれている。多くの文人墨客や俳聖・松尾芭蕉も長野峠越の道を利用し、街道筋にはいくつもの句碑が建てられているらしい。

 R163に下りて一個目のコンビニで休憩しようと決めていたのだが全く見当たらない。ようやく出てきたコンビニで一旦小休止とする。しかし、ツーリングマップルを確認するが、ここがどこだかさっぱりわからん。わからんことは、地元の方に聞くに限る。ってわけで、早速コンビニのお姉さんに聞いてみる。

bar「ここって、どこですか?」
お姉さん「は?

 お姉さんは一瞬怪訝な視線を僕らに向けたが、すぐに事情を察してくれたのか、にっこり笑いながら地名を教えてくれた。駐車場でTちゃんとそろそろ出ようかと支度をしていると店内のごみを片付けるためにお姉さんが出てきた。

お姉さん「今からどこに行くの?」
Tちゃん「伊勢です」
bar「長野峠を越えようと思ってるんですけど、峠道はきついですか?」
お姉さん「バイクならちょうどいいわ、きっと」
Tちゃん「そこそこきついんですね」
お姉さん「車だとちょっときついって感じだから、バイクにはええんちゃうかな」

 お姉さんにお礼を告げて、僕たちはようやくあったかくなってきた伊賀街道を先に進んだ。 しかし伊賀街道はチョーおすすめ! はるかな田園風景だけがひたすら続く。見事な青空がひろがって、この時間になると寒さも少しだけゆるんでいるのがわかる。たぶん2℃か3℃なんだろうけど。

 あまりにも快適すぎて、聞いていた長野峠もすいすいと流してしまい、写真を撮るのも忘れてしまった。峠を越えて少ししたら、またはるかな田園地帯が現われる。ちょっと脇道に入って田園風景をバックにパチリ。

bar「どーよ、Tちゃん。この風景」
Tちゃん「日頃のしょーもない疲れが全部洗われるようです」

 それにしても、こういう風景を見るたびに、僕たちが日々の生活にあくせくしている時間と同じ時間が、毎日ここでも流れているのかと思うと、ホントに街での生活が味気なく感じられてしまうし、逆にいえば、ここでの時間の流れをとても羨ましく思えてしまう。

 途中でもう一回、コンビニに立ち寄る。時計を見ると、さっきの休憩から30分しか走ってない。

bar「やっぱし3~40分が限界や…」
Tちゃん「ホンマですねぇ。いくらあったかいといっても限界があります…」
bar「なんかさぁ…」
Tちゃん「なんスか?」
bar「伊勢神宮行くの、やめる?」
Tちゃん「え~! せっかくここまで来たんだし、行きましょうよ~」
bar「そだね」
Tちゃん「切り換え早っ! …なんだ。行く気あるんじゃないですか」
bar「言ってみただけ」

 ホントは僕自身は何度も行ったことがあったので、腹も減ってきたトコだし、いっそのこと的矢まで一直線に…と思ってみたりしたわけなのだが、Tちゃんは関西人なのに関西を全然知らないおヒト。伊勢神宮も行ったことがないのかもしれないな…なんて思い直したのだ。

 R163はいつの間にか伊勢道をくぐる。そこで県道55号線に入って南下。久居ICから伊勢道に乗ろうと企んでいたが、R165の直前あたりで道がわからなくなってしまった。僕はすぐ近くのカメラ屋さんに入って道を尋ねた。中には小柄な人のよさそうなおっちゃん。

bar「久居インターって、どう行けばいいですか?」
おっちゃん「次の信号を右に曲がれば国道やから、そのまままっすぐ行ったらあるよ」
bar「ありがとうございますー」

 地図で確認して出発しようと思ったら、店の中からおっちゃんが出てきた。

おっちゃん「どこ行くの?」
Tちゃん「あ。伊勢です」
おっちゃん「あぁ、伊勢かぁ。伊勢なら次の信号を左に曲がって、そのままR23で行った方がいいよ」
bar「そうなんですか?」
おっちゃん「うん。伊勢道って、ぐるーんと、こう遠回りしてるやろう? R23は海沿いをまっすぐ伊勢に続くから。時間も伊勢道に乗るのと変わらんで。僕らも伊勢に行く時にはR23で行くもん。バイパスやから信号もあんましないから、白バイと覆面にさえ気をつけたら、快適なモンよ」

 それが最大の問題なのだが。

 しかし時間も変わらんというのであれば高速代を節約できるんだし、せっかくおすすめしてくれたわけだし、ってわけで、僕たちはおっちゃんにお礼を言って出発。

 R23ですが……これが大正解。おっちゃんサンクス! 特にR42と分岐してからはほぼ高速状態。信号もあることはあるが連動もすこぶるよろしく、何よりひろ~い2車線で車の平均時速も軽く▲◇*km/h。おしっこをしたいためにコンビニを焦った僕の脇道への選択ミスを除けば、最高の道だった(対向車線で白バイは発見したが)。

 で見つけたコンビニで休憩。

 途中の信号待ちで、外宮はパスして内宮だけにしよ…と話していたのだが、寒いこともあって二人ともおしっこが近い。コンビニに寄るたびに僕たちは缶コーヒーやら缶のポタージュスープやらをごくごく飲んでいたのだが、飲んだものがそのまま膀胱に直結してるかのごとく尿意を催してしまう。先にトイレを済ませた僕は、入れ替わりにトイレに入ったTちゃんを見送った後、1人コソコソとお買い物。買ったのは、

 なぜTちゃんにこっそりと買うのか。Tちゃんったら食べ物に関してはとっても規律正しく厳しいお人だからである。Tちゃんが帰ってくる前におでんのタマゴを食べ終え、ポタージュスープを飲みながらタバコを吸ってみたりして。まさしく何食わぬ顔で。(ウマい!)

 天気はまさに快晴。寒さはちょっと緩んだだけで相変わらず。信号待ちのたびに、

Tちゃん「やっぱしさぶいッスねー」
bar「オレにはコレ(Tちゃんの冬用グローブ)だけでも天国よ」
Tちゃん「よっぽど今まで辛かったんですねぇ…」

 という会話を繰り返していた。

伊勢神宮

 R23は松阪市内を越えて伊勢へ。伊勢に入ってしばらくすると、道の両側には、背の高い石灯籠のようなものが等間隔に並んでいる。伊勢神宮(内宮)への参道という雰囲気が漂っていて、かすかに高揚感のようなものも感じる。

 「国道23号線終点」というでっかい看板が見えたと思ったら、そこはもう内宮の境内(デカすぎてよくわからなかったが)。大きなロータリーの向こうに、で~んと構える鳥居を向くと、予想以上にうじゃうじゃとジジババ軍団…。

bar「なんじゃこのジジババ集団」
Tちゃん「どうやら団体のようですねぇ…」

bar「やっぱし寒いな…」
Tちゃん「グローブは?」
bar「うん。グローブは全く問題ないねんけど、いざ最大の問題が解消されると、他の細かいところが気になってくる」
Tちゃん「とりあえずよかったです。僕も手はこたつ状態です」
bar「……そんなにスゴいのん?」
Tちゃん「ええ。あんまり熱くてハンドルがまともに持てないです」

 BMWのバイクが置いてある小さな駐輪場のようなところがあったのでバイクをそこに止め、僕たちは早速ジジババたちの軍団に埋もれるように参拝路を進む。一つ目の鳥居をくぐって大きな橋を渡ろうとしたら、橋の中央がまるで教習所の一本橋のようになっていて、「右側通行」との看板。

bar「なんや? この一本橋みたいな中央線は」
Tちゃん「神様の通り道だから人間は通っちゃいけないってことだったと思います」
bar「神様ってそんなに一本橋が得意なん?」
Tちゃん「そういうわけではないでしょうね」
bar「どーする? アソコを120秒以上で渡れ、とか検定であったら」
Tちゃん「僕には永遠に大型免許取れません……」

 橋を渡りきって砂利の敷かれた広い参拝路に出ると、五十鈴川へ出られる河原のようなところで、またまた巨大なジジババ軍団を発見。

bar「今日は敬老の日か?
Tちゃん「日本人は宗教に節操がないから。日本人の知恵ともいえるんですが」

 宗教に節操のない僕たちも手を清め、早速神の領域へ。

Tちゃん「いやぁ。久しぶりデス」
bar「えっ?! ここは初めてじゃないの?」

 今までTちゃんとは白浜(和歌山)、鞍馬~京都市内と走ったが、どこもかしこも初体験だったのである。関西人なのに…。

Tちゃん「小学生の修学旅行以来ですけど」
bar「それはもはや初めてに等しいのでは…」

 ともかくTちゃんが初めてじゃなかった場所に来たことが初めてだったのだが、天気がいいこともあって、なかなかひろい参拝路はキモチイー! ところがオジイオバア集団の群れの中にも、カップルが数組含まれていることに気が付く。

bar「なぜこんなところにカップルが来るんや?」
Tちゃん「オトコ2人ってのもどーかと思いますが」
bar「……確かに」

 ここでオジイオバア軍団のひとかたまりが立ち止まって、何やらガイドさんの説明を聞いて、ふんふんと皆うなずいている。ここで僕の秘技「団体さんにとけ込む」の術! ガイドさんとジジババが見ている方向に視線を走らせると、どーやら目の前の大木の説明をしているようだ。

ガイドさん「この大木は樹齢1000年と言われ…」

 ぼくは早速Tちゃんの肘を小突く。

bar「おい。この木って樹齢1000年らしいぞ」
Tちゃん「おぉ…」

 見上げると確かに天を突かんとするかのように真っ直ぐ上の向かっておおらかに伸びている。

Tちゃん「1000年ってゆーと…平安時代でしょうか」
bar「鳴くよ(794年)うぐいす平安京、やからな」
Tちゃん「納豆(710年)食べて平城京、ですね!」
bar「いい国(1192年)作ろう鎌倉幕府!」
Tちゃん「イクイク(1919年)ベルサイユ!」
bar「ハレンチ!」

 1000年前といえば、まさに平安時代末期。今で言うなら世紀末思想である末法思想からも解き放たれ、まさに21世紀を迎えた数年前の僕たちのように新しい時代を感じていた頃だ。

 そのまま参道を人の流れに乗るように進むと、やがて本殿。写真撮影禁止ということだったので残念ながら写真はないのだが、奥深さをたたえながら鎮座されていた。

Tちゃん「なんだか黙っちゃいますね」

 本当にスゴイものに対して、言葉は何の力も持たない。

 お参りを済ませて、「帰路→」という看板にしたがって歩く。それにしてもあったかい。

Tちゃん「今日は僕にとって、ホントの初詣なんですよね」
bar「マジで?」
Tちゃん「そーなんです…」

 そりゃ来たかったわけだ。 Tちゃんと僕とは他社だが同業者であり、お正月明けから14日連続勤務で、翌日の休みも午後から会議で…といったような仕事サイクルで今も働いている。そりゃ休みの日にわざわざ初詣に出かけようという気力もなくなるって。

bar「で、春から仕事はどーなるのよ」
Tちゃん「ええ。もうシャカリキに働くのも疲れたので、しばらくのんびりします」
bar「ふーん。で、どのていど?」
Tちゃん「週休3日です」
bar「極端すぎないかい……」

 伊勢神宮を出るまで、安岡章太郎の小説の話で盛り上がり、あとはおかげ横丁へレッツ・ゴー。ここで店を流したら、あとは的矢に向かって最初から最後までぜ~んぶ牡蠣料理を食べ尽くすのだ。それにしても腹へった~ぁ。

Tちゃんとの戦い

 ジジババで盛り上がっていた伊勢神宮だが、その横にある商店街(ここはまだおかげ横丁ではない)もまた、ジイチャンバアチャンで80年代の竹下通り状態。人のまったりとした流れに乗りながら、僕たちは店を冷やかして回った。おかげ横丁まではまだ少し歩かなくてはならないようだ。

bar「しかし、行きの寒さがウソみたいなあったかさやな」
Tちゃん「まったくです。走ってなければあったかいんですね。なんだかこの格好が暑くなってきました」
bar「ホンマに……あっ!!!!」
Tちゃん「まさか天ぷら食いたいとか言うんじゃないでしょうね」

bar「どきどきっ!!!」

 また少し行くと、

bar「しかしどこまで歩けば、おかげ横丁に着くんや?」
Tちゃん「まだ全然歩いてないじゃないですか」
bar「Tちゃ~ん。オレ、おなかペコペコだわ…はっ!!!!」

Tちゃん「おぉ…。海鮮焼きですかぁ。さざえ焼きってありますよ……。ダ、ダメですっ! この後、的矢まで行かなくちゃならないんですよ!」
bar「ちぇっ。ケチ! おかげ横丁、まだ~ぁ?」
Tちゃん「さっきの海鮮焼きの露天から30歩も歩いてないでしょ!」
bar「そんなこと言ったって…あっーーーーーー!!!!!」

Tちゃん「でっかい『牛』の字だ。上手な字ですね」
bar「アホか。ここはきっと牛肉を食わしてくれるところや」
Tちゃん「えっ?! 吉野家でも牛丼始まったんですか?」
bar「あれはアメリカ産!」
Tちゃん「ってことは、ここは国産の上等なお肉が食えるわけですね! じゅる……ダ、ダ、ダメですっ!」
bar「また牡蠣料理が…とか言うんやろ」
Tちゃん「そーですよ!」
bar「カタいなTちゃん。君はカタいよ。カチコチだよ」
Tちゃん「なんと言われようとも僕は信念を曲げません! もうおかげ横丁なんて行ったらどーなるかわかりません! ここでは赤福でも買って、とっとと的矢に向かいましょう!」

 僕はTちゃんに腕をつかまれて、バイクを止めた伊勢神宮前まで引きずられていったのだった。ちぇっ。あと30分も我慢か…

(つづく)