目が覚めてみると、まだ多少、太鼓の音が耳の奥で鳴っているような気がしなくもない。
そんなツーリング2日め。
チェックインした時の「これがオーバーツーリズムというやつか」と思うほどのフロントでの大騒ぎから推測するに、食事会場が開くやいなやわけのわからない言葉で騒ぎ立てながら某国民たちが殺到する地獄絵図が頭の中によぎったので、さっさと支度を済ませて開場5分前には1階に降りた。
ところが、ホテル側も察してかすでに朝食会場は開いており、皆さん非常に礼儀正しく粛々と並んで食事を取っている。肩透かしとはこのことだが、某国民たちはまだ熟睡しているものとみた。
ゆっくりと1時間近くかけて完食。特に変わった食材があるわけではないが、いちいち朝めしはどうするかと考える手間が省けるし、第一あったかいご飯とおかずが食べられるのだから贅沢はいえん。
せっかく輪島に泊まってるうえに、歩いて5分もかからないんだから朝市に行かない手はない。部屋に戻って一服したら、朝市の始まる8時を待たずしてホテルを出発。ぼくと同じように朝市に向かうであろう人たちもたくさんいたので、流れに乗って進んでいった。
輪島の朝市は、飛騨高山の朝市、千葉勝浦の朝市と並んで「三大朝市」にも数えられる有名な朝市だ。
朝市がスタートする時刻のはずだが、まだ開店準備をしている屋台もあり、もちろん開いているお店もあり。すでにそぞろ歩いているお客さんたちもたくさんいて、朝市の雰囲気は徐々に整ってきている感じだ。このへんの、ある種のゆるさも心地よい。
長さ約350mに約200軒のお店が軒を連ねる輪島の朝市には1000年以上の歴史があるとも言われている。1000年昔といえば、ざっくりいえば平安時代。古今東西の市と同様、はじめは物々交換から始まったのだろう。明治時代には毎日開催されるようになり、昭和に入って松本清張氏原作の映画「ゼロの焦点」のロケ地が近かったことで一気に奥能登ブームが起こり、ホコ天が禁止されたり解除されたりといった紆余曲折あって現在に至る。
漁港も近いとくれば干物などの海産物も多いが、輪島といえば漆塗り。箸や椀といった定番商品はもちろん、イヤリングやブローチといったものもある。愛する奥様へのプレゼントにまさか干物を買って帰るにはいかないので、ここは輪島塗りだな。
朝市の中には、ぼくが敬愛するロボットヒーロー・マジンガーZの原作者・永井豪氏の記念館もあったが、開館時刻まではまだ少し時間があったので今回はパスすることに。
今晩泊まる予定のホテルはそれほど遠くなく、要するに今日はそんなに長い距離を走る必要もないので、のんびりと散策できた。愛する奥様へのお土産も無事ゲットし、ホテルに戻ることに。
9時前にはホテルに戻ったのだが、四郎号の外側に止まっていたはずの数台のバイクはすでに姿がない。外国人のサイクリスト集団を見送りながら、ぼくも出撃だ。
能登半島後半戦、まずは昨日も走ってきたR249で東進。
ここまで来たら、やはり外せないのは白米千枚田。
道の駅だけでなく、ずいぶんと立派な展望台までできてて驚いた。昔はそれこそ道端にバイクを止めて眺めたような記憶があるのだが。
そこからもR249をひたすら東へ。海が見えたらずっとこの図。
たまに工事のため片側通行になっていたりするが基本的には信号なしの快走路。こりゃたまらんという気持ちと、
捕まってはたまらんという気持ちをうまく均衡させながら、でもやはりこんな絶景の中を飛ばすだけではもったいなさすぎるという気持ちが勝って、のんびりと快走。
そのうち珠洲市へ。目の前の景色は相変わらずの絶景だが、ここらあたりになると「塩」推しになる。寄らなかったけど、「すず塩田村」なんて名前の道の駅もあるくらいだ。
珠洲市内でR249は大きく内陸部を走ることになるので、海沿いを行くため県道28号線へスイッチ。この道中に、「ゴジラ岩」と呼ばれる岩がある。ちんたら走っていたのが奏功して気づくことができたので寄ってみることにした。
びゅーびゅー風が吹きすさぶ中、目の前には平磯がフツーにあるだけで、どれがゴジラ岩なのかさっぱりわからない。昨日見たトトロ岩くらいの大きさだと勝手に想像していたが、どこを探してもそれらしき岩は見つからない……
と諦めかけたところで、目を凝らすとゴジラに見えなくもない小さな岩礁が。
ここまでくると、もはやこじつけのようにも感じるが、まぁかろうじて見えなくもないので、ここは黙認することにした。
黙認はするものの、やはり気分的にはモヤモヤしたものを抱えながら県道28号線を海沿いに。
砂浜アリ、
ギュイーンと山道アリ。
なかなか飽きさせない。その登り坂の頂上にあたるところに小さなパーキングがあったので休憩だ。
まだ10時過ぎだというのに、体感的にはすでに30度にはなっている。地形的にそうなるのか、ここでは弱くはないがたいして強くもない風は温風といってもいいほど。海の景色を眺めていないとやっとれん。
次の目的地は能登半島の突端だ。
(つづく)