宇陀の道の駅を出て県道218号線からR369に入ると、道はぐんぐん上っていく。景色はというと、山しかない。当たり前だ。奈良の山の中なのだ。おまけに平日パワーも見事に炸裂して交通量もほとんどない。今日はこういうのを求めていたから、路面が多少悪かろうと目をつむれる。
ぼく以外に走ってるのは農作業の途中の軽トラじいちゃんばあちゃんか、しかたなく営業で走っている商用ワゴンくらいだ。
そうこうしているうちに、道端にやたら黄色い蛍光色の幟。
なにごとかと目を凝らして見ると「伊勢本街道」がどーのーこーのーと書いている。気分よくR369を走りながら、
宇陀松山を見たところだったこともあって「街道とくれば宿場だな……」と思い立ち、ここ伊勢本街道で今でも残る旧宿場はないか検索してみようかななどと考えていたら、道の駅 伊勢本街道御杖が見えてきた。
道の駅じたいは本日定休。自販機で買った缶コーヒーを飲みつつ一服しながら「伊勢本街道 宿場町」で検索してみると、この先にそれらしいところがあるようなので寄ってみることに。
道の駅 伊勢本街道御杖からR368(422)に入っても相変わらずな快走路。
走りながら、この道(R368)も何度も走ってるはずなのに、旧宿場町があるなんて今まで考えもしなかったなぁと考えていた。何かほしいものがあるときに街を歩いていたら、その「何か」がやたら目につくのと同じで、結局、人間の認知というものは意識によるものなのだと痛感させられる。
などといかにもつらつらと物思いに耽っていたような書き方をしているが、道の駅 伊勢本街道御杖から10分ほど走って注意深く見たら、JR名松線の伊勢奥津駅がある。「注意深く」とわざわざ書いたのは、ぼくがボサーッとしていて曲がり角を通り過ぎてしまい、こりゃおかしいと思って引き返したからだ。
山間の駅にしては妙に小綺麗な駅舎と貼り物だな…と思って調べてみたら、やはり過疎化に伴う乗降客の減少、そして災害による路線の不通などが重なり、一時は交通手段をバスに代替する案が出されたところで地元住民の熱望により存続が決定。そこからはコスプレイベントを開催したり萌えキャラをマスコットにしたりと奮闘しているとのこと。これを涙ぐましいと言わずして何と言う。知ってしまったぼくもできるならどこかでわずかでもお金を落とせたらとは思ったが、あいにく駅周辺にはお店の一軒もなさそうだった。ちなみに「奥津」は「おきつ」と読むのだそうだ。
駅前の道をわずかに進むと、辻にあった「ぬしや」と看板を掲げたやたら大きな建物。これが奥津宿のシンボルなのか。
この規模と、「日用百貨」と掲げているというところから、ここは奥津宿の雑貨屋(よろづや)さんといったところだったのだろう。ただ、「大正九年度 集金帳」「大正拾年度 集金帳」なんてのがぶら下がっているところを見ると、明治期あたりの建築なのだろう。
人っ子一人いない旧伊勢本街道の細い道をチラッと走ってみた感じだとそれなりに歴史がありそうな家屋はあるにはあったが、残念ながらそれらを本格的に観光資産としてやっていこうというところまでは至っていないようだ。
奥津を越えてすぐに見えてきた県道15号線へ。ここからは新緑に囲まれた山の中にぐいぐい入っていく感がすごく、
海沿いもいいけど、川沿いの道もやっぱりいいなぁ。
途中で小さな集落もあり、
その向こうには青山高原も覗き見える。
白山町の家城あたりに至ってすっかり街なかの雰囲気になり、「JRの関ノ宮駅を越えたあたりで三重県道28号線を北上だな」と思いながら県道15号線を進んで無事に関ノ宮駅を通過。そろそろ分岐だなぁとぼんやりしながら進むと、「←JR伊勢川口駅コッチ」の案内板。あれ? こりゃおかしい。
こういう細かいところはツーリングマップルにはやや荷が重い。道端に四郎号を止めてグーグルマップで見てみると、どうやら小学校の脇道に入らねばならないもよう。
小学校なんてあったっけ? と思いつつ即座にUターンしてなんとか小学校を見つけ、角を曲がってようやく三重県道28号線に入ることができた。
JR名松線と雲出川を越えたあたりから三重県道28号線の標識がどこにも見当たらなくなり、R165を越えてからは「たぶんコッチだろう」「おそらくコッチに違いない」と走っていったら出てくる三重県道28号線の案内標識。
しかしその後、「榊原温泉」の看板がやたら目立つあたりになると案内標識なんぞどこにも見えず、こうなると「コッチだな」「コッチだろう」「コッチかもしれない」「コッチ…か?」と野生の勘だけで進み、しばらくすると見つかる三重県道28号線の標識。ふぅ。
奈良県道28号線はあんなに快走路だったのになぁ……と思いながらも、長年鍛えた野生の勘はまだ鈍ってなかったか……とちょっと安心もできた。ここのところ町なかなどめんどくせーなーと思うところだとすぐにスマホに頼っていたところがあったしなぁ、なんてことを考えながら走っていると、見事な水田風景が見えてちょっと癒やされた。
その後も関宿の手前まで県道28号線をたどるのだが、途中で一旦R163に入ることとなる。
(つづく)