rider notes

BC-ZR750C乗りの残しておきたいログ

山陰|5.久美浜~五色浜

 ひと晩お世話になったOホテル豊岡さんをチェックアウトし、まだ人もほとんどいない街なかに出た。

 きちんとした服装の、これから仕事のために駅へ向かうのであろう女性が、すれ違う瞬間にバイクに乗ったぼくを怪訝そうに見やる。朝っぱらからうるさい音を立ててすみません。

 途中でラウンドアバウトがある寿通りをまっすぐ進んで円山川を越えると、これまた昨日からお世話になりっぱなしのR178に。

 京都府との府県境あたりは緩いながらも峠になっていて木も生い茂り、まだ朝ということもあって肌寒さを感じながらもなかなかの快走。昨夜テレビでやっていた天気予報だとこの時刻の気温はひと桁のはず。

 「小天橋コッチ」の看板が見えたらR178を離れ、久美浜小学校のつきあたりを曲がると久美浜湾がすぐそばだった。

 昨日は一日中波立つ日本海ばかりを見ていたから、凪いでいる久美浜湾がなんだか不思議だ。久美浜湾に沿う県道49号線でそんな水面を見ながら走っていると速度を出そうという気にならない。

 前にも後ろにも車が一台もいない県道49号線を気分よくするすると進むと見えてきた小天橋駐車場。小さな天橋立だから「小天橋」なのだそうだが、「こあまのはし」ではなく「しょうてんきょう」と読む。

 車も数台しかいない広い駐車場を贅沢に使わせてもらい、四郎号の「映え」写真をゲットする。

 当たり前だが見えるのは日本海だ。さっきまでの静まり返った久美浜湾とは違い、こちらは朝から波がゆっくりとしたリズムで鳴り響いている。

 小天橋から走り出すとすぐに「葛野浜海水浴場」という小さな看板が見えたので県道49号線をギュギュッと曲がると、これまた見事な砂浜。

 こちらは手狭な駐車場に車がほぼ満車。ほとんどが四駆系で、開けっ放しのハッチバックドアから見えるのはサーフボードやウェットスーツ類。確かに風が強い。海を見てみると波待ちのサーファーたちが大勢見える。

 相変わらず車が一台もいない県道49号線を気分よく進み、

 夕日ヶ浦温泉を通り過ぎて県道665号線に入ると、すっかり見慣れた山陰海岸の様相でむしろ安心。

海際はほぼこんな景色が続くとご想像ください

 やがて見えてきた案内にしたがってちょっとビビるほどの下り坂をぐんぐん進むと、そこが五色浜園地。

 ここは駐車場からの日本海の眺めがすこぶる良く、タダでキャンプもできる。現に今もカップルとソロの2組がテントを張っている。カップルの方はテントのすぐ前で海に向けてチェアに座り、ゆったりとコーヒーか何かを嗜んでいる。ソロの方はテントは開いているようだが姿が見当たらない。

 ぼくは四郎号を駐車場に置いて海際まで下りてみた。

 昔と全く変わっていないような気もするし、こんなふうではなかったような気もする。どっちなんだろうか。

 もしかしたら変わっていないようでいて変わったのはぼくのほうなのかもしれない。いや、ひょっとしたら変わったようで実は変わっていないのかも、なんてとりとめもないことを、荒々しい海辺と波立つ海を眺めながらぼんやりと考えていた。

 誰も来ない。聞こえるのは小さな波が力いっぱい激しく磯を打ちつける音と、ときどき鳴く海鳥の声だけ。

 山陰海岸が陰鬱なイメージであっても快晴の下で光り輝いていてもそのどちらでなくても、ここはここで存在しているんだから、それでいいじゃないかと思えた。目の前に広がる日本海とすぐそこにある潮溜まりは好対照だが、よく考えればどちらも「海」にちがいないのだ。

(つづく)