渦潮偵察
ビキニのおねーさまは夢のモクズと消え去ったワケであるが、考えてみれば、淡路軍がそのような失態を犯すはずがない。なかなか手ごわいゾ、と心機一転、僕たち大阪連合軍はいよいよ島南部を制圧に進軍することとした。
次に目指すは鳴門大橋。海沿いの県道31号線から、これまた海沿いの県道25号線にスイッチするところを間違えて、危うくフツーの道を突き進むところだったが、なんとか持ち直し、一路「道の駅 うずしお」へ。
ここを拠点に陣を構えれば、四国からの救援を断つことができる! 淡路國攻略戦の最重要課題の一つでもある。 で、とりあえず…
あまりにも有名な観光地でもあるので、特に説明はいらないとは思うのだが、この道の駅から徒歩で鳴門の渦潮を見に行くことができる。
当然のごとくTちゃんは高所恐怖症であり、渦潮処女である。
Tちゃん「ひぃ……。し、しかし、よくこんなところに橋を作りましたねぇ…」
確かにそれは言える。海面はまるで川のように流れている。よく見ると、海水面の高さすら違うようにも見える。それくらいすごい流れなのだ。そんなところにフツーの人間では想像もつかないほど大きなモノをこしらえて、しかもそれをこの激流に据え付けて…。僕もいつの間にか、小さくできていた渦潮ではなく、川のような流れにびくともしない橋脚に圧倒され、橋脚ばかりをじっと見つめていた。
Tちゃん「これは乾杯ですね、最高司令官…」
bar「え~。ただ今ご紹介にあずかりました、アタクシ、大阪連合軍の最高司令官を務めております…」
Tちゃん「あ。間違えました。完敗です」
bar「barちゃんと申します。本日はこのような晴れがましいお席にお招きいただき…」
Tちゃん「もういいですよ……」
確かに四国からの救援路を断つ作戦は我々の完敗だったようだ。今後の作戦に大きな支障をきたさなければいいが…。
山武水産を目指して
さて、気を取り直し、次は空腹を満たすために、福良にある「山武水産」を目指すことにした。ここは、知る人ぞ知る海鮮焼きの名店。Tちゃんのガイドブックにも「サザエも車エビもイカ焼きも1皿400円、缶ビール300円。ご飯が欲しければ持ち込み可能」
夢のようなお店である。
いよいよ福良に入る。見逃してなるものかと一本橋の時と勝るとも劣らない低速走行で町なかを流す。道端には「○○水産」という看板と大きめの倉庫らしき建物、そして小さな構えの店などが次々に現れる。
高まる期待。震える鼓動。
が、どこをどう探しても見つからず、そこらを自転車で走っていた坊主頭の男の子をつかまえて聞いても知らず、挙句の果てに止まっていたパトカーにまで聞いたのだが、地元の警官ですら知らない。
あれだけあると思っていた時間も、それほどなくなってきており、もうこれ以上捜索は続けられない。最高司令官である僕は苦渋の選択に迫られていたのであるが、ついに英断した。
bar「これにて『山武水産』の探索を打ち切る! 各部隊は撤退準備をせよ!」
やめる勇気も必要だと自分に言い聞かせながらも、これはショックでかすぎ。行きのフェリーの中でも、
bar「とりあえず今回は『あさじ』のアナゴと『山武水産』の海鮮焼きで決まりやね」
Tちゃん「そうですねぇ…たらふく食いたい…」
bar「ひと皿400円やろ? あっという間に2000円とかになるって」
Tちゃん「いっそのこと舟盛り状態で頼みましょうか?」
bar「おっ。いいねぇ」
などとさんざんドリームを語っていたのである。それがまさに夢で終わってしまうとは…。次こそリベンジだ!
南淡路水仙ライン
鳴門大橋の戦い、福良・山武水産の戦いに連敗した我々大阪連合軍は、迫りくる淡路國攻略戦失敗の足音を振り払うかのように、南の海岸線をなぞる県道76号線で一気に島南部を制圧するべく走り出した。県道25号線から県道76号線にスイッチするあたりは少しの間ゆるやかな山の間を走るのだが、この道がまた爽快。ロケーションも路面も、そして道幅もグッジョブ!
南淡町の土生というあたりからは再び海岸線をトレース。とにかくここらあたりからは少しのカーブと、あとはひたすらストレート!
で、いつもの休憩。ここらあたりで時刻はもう夕方と言ってもいい時間帯。
bar「でもなんでこの道、『水仙ライン』なんやろか?」
Tちゃんはツーリングマップルを取り出してなにやら見入っていたが、
Tちゃん「これ見てくださいよ。『灘黒岩水仙郷』と『立川水仙郷』を結んでいるように走ってるからじゃないですか」
bar「……。おもろない」
Tちゃん「は?」
bar「せっかく『すいせん』ってボケ放題のネタをふってあげてるのに!」
Tちゃん「すみません、気づきませんでした…」
bar「トイレの『水洗』もあれば『推薦』入試ってあるわけでしょ? そのどちらかをだねぇ…」
僕の指導はいつまでも続くのであった。
(つづく)