rider notes

BC-ZR750C乗りの残しておきたいログ

南紀|1.目指せ温泉天国

正気の沙汰です

 全国4000万のbarちゃんファンのみなさまごきげんよう。キャンプツーリングに行くだの行かんだのとさんざん騒いだ挙句、結局は決行当日の朝まで引っぱられた雨のせいでオジャンとなり、今回の行き当たりばったり日帰りツーとなってしまった。

 1年で最も寒いであろうこの時期だけどキャンプツーリングに行こうとツレを誘ってみても、みんなから返ってくるメールは、

友人A 「正気か?!」
友人B 「アホか?!」
友人C 「修行か?!」
友人D 「自衛隊の訓練か?!

 とまともに取り合ってくれたのは一人もおらず、今回も一人です。

 朝5時起きの予定が起きたら6時だったということ以外はとりあえず順調に支度完了。 近くのICから阪和道に乗ってひたすら南下! そう。南下である。なぜなら、ツーリングライダーは夏になると北にさすらいたくなる。それと同様に、冬は南と決まっているからだ。

 靴下2重、上下ジジシャツ、全身にカイロ10個と防寒対策完全防備であったにもかかわらず、阪和道を爆走していると、もう指先とつま先が、 カッキーン!!!!! と冷え冷え。

 紀ノ川SAでガソリン注入のためだけにピットインし、あとはひたすら進軍。さすがに朝一番という早い時間帯だけあり、寒いというか冷たくてとても飛ばせない。そこでペースメーカーかつ防風のために、でっかいバスを見つけて、びったりスリップストリームに入りつつ追走していると、やがて日の出が。しかし、太陽が照ってもちっとも気温が上がるような気配がない。約1時間後には阪和道の田辺ICに到着。

 田辺ICは現在の阪和道の終点なので、そのまま進むとR42のバイパスに強制的に直結している。高速ほどスピードを出す必要がないとはいえ、ここのバイパスは意外とハイスピード。狂気的な体感温度マイナス10℃と格闘してもうかれこれ1時間半近く。ぼちぼち1発目のエネルギー補給といっときますか......と、バイパスを下りたところにあったローソンでご休憩。

 そこから少しの間、R42の市街地を走行すると、R311との分岐。青看板には、

 まさにR311は「温泉へとつづく道」。R42との分岐時点でそれら温泉への道のりは40数キロあるのだが、前にちんたらした車がいたとしても1時間ほどで着ける計算。

 今日の目的は川湯温泉。そこに冬の間だけ作られるという噂の「仙人風呂」に入ってやろうという魂胆。やっぱり冬は温泉! もちろん小栗判官伝説で有名な湯の峰温泉でもよかったし、近畿圏最大の収容人数を誇るどでかい渡瀬温泉でもよかったのだが、話題性としては川湯温泉にある「季節限定」の仙人風呂に入ってやろう。

 川湯温泉というと今じゃ「仙人風呂」というくらい有名だが、その昔(僕が放浪生活をしてた20年ほど前)にはそんなものはなく(というか僕が知らなかっただけかもしれない)、「川を掘れば温泉が沸く」という噂をどこかから聞きつけて行ったのだと思う。それではお言葉に甘えて……とばかりに一人で河原の石をがちゃがちゃひっくり返していると、目の前にあったホテルのおばちゃんが出てきて「河原を掘るんやったらスコップ貸したるで~」と工事用のしっかりしたスコップを持参してくれたという思い出の地なのだ。

滝尻王子

 R311は「温泉へとつづく道」であるが、世間的には「世界遺産熊野古道」でもある。

「広大慈悲の道なれば紀路も伊勢路も遠からず」と言われた熊野詣での紀伊路伊勢路だが、平安時代末期から天皇や上流貴族、上流武士たちが熊野を詣でるのに紀伊路の中辺路を利用するようになり、やがてこの路が有名になったと言われている。

 R311に左折してちょっとすると、すぐに「世界遺産」の看板、幟が至るところに立てられて、風になびいている。「○○王子跡」という看板も次々と現れる。車もまばらでハイペースのうえ、ほとんど信号もなく、寒いながらもするすると気持ちよく進み、道の駅「ふるさとセンター大塔」を過ぎてR371との分岐にあった王子跡の一つ、滝尻王子跡に寄ってみることにした。ここまで来て一つも寄らないってのもね。

 説明看板によると、王子は正式には「熊野九十九王子」。大阪から熊野に出る道中に散在する神社であり、熊野詣での際の、遙拝所・休憩所・宿泊所のことである。今で言うなら「宿付きの道の駅」、もしくは「サイクリングターミナル」みたいなもんかな。

 その九十九王子の中でも特に格式の高い5つが選ばれて「五体王子」(藤白・切目・稲葉根・滝尻・発心門)と呼ばれ、奉幣、読経、相撲、芸能、歌会などの催しもあったようで、王子にはその舞台の残っているところもあるそうな。

 早速中へ潜入を試みる。とはいうものの、国道沿いだというのにやたら鬱蒼と、しかし寒々とした緑に囲まれていて、朝早いとはいえお土産物屋のおばちゃん以外に人気はまるでなし。

 川向かいにあった熊野古道館もとっても閑散と。寄ろうかなとも思ったんやけど、とりあえず今回の目的は川湯温泉でほっこりぬくぬく……なんで、R311を進むことに。

熊野古道

 ところが道の駅「熊野古道中辺路」を越えたところで、「熊野古道案内図」なる看板を発見してしまったから始末が悪い。

 見ればこの一帯である近露地区から始まるR311の旧道は、熊野古道と絶え間なく交差している由緒ある道。近露へと続く道はR311よりもいっそう寒々として見える。R311ですらこの時間(午前9時過ぎ)で車がぱらぱらといる程度。旧道に人がいるとは思えない。その予想は見事的中することとなる。

 この旧道は結構人家の間を縫うように進むので、まだ朝早い時間帯ということもあるので、なるだけエンジンを回さずに静かめに走行。

 とりあえずR311へと戻らねばならない。旧道はぐんぐん上っていき、時折眼下に見えるのは車もちらほらいるだけで信号もほとんどない、関西屈指の快走路とまで言われるR311。一方、コチラはぐねぐねでぐるんぐるんの旧道。時間がかかるばっかりで、いっこうに距離が稼げない。

野中の清水

 ぐわんぐわんのアスファルトが急に小ぎれいな石畳と朱塗りの欄干。そこだけが雰囲気が違う。とりあえず停止。道端にあった看板と欄干によると、これは「野中の清水」。

 古くから一度も枯れたことのない湧き水で、清水は道下にあるお寺の近くを流れ、野中川に注がれており、日本名水百選の一つ。県指定文化財の名木「野中の一方杉」の繁る継桜王子が頭上(崖上)にあることから、熊野詣での旅人たちの給水ポイントとなっていたようだ。

「いにしへの すめらみかども 中辺路を 越えたまひたり のころう真清水」 と、歌人斎藤茂吉もこの清水に魅了され、歌を残しているくらい有名なんだそうである(歌碑もあり)。四郎号を下りて近くで見れば、確かに清冽とした水が満々とたたえられている。今の季節だと、見てるだけでサブイボモノだ。

 その後、旧道はひゅるひゅると下っていって、小広というところで無事にR311と合流。

茹だるところでした

 相変わらず車がたまにしかいない快走ぶりのまま(ついでに寒さもそのまま)、いくつかのトンネルを抜けると、いよいよ本宮温泉郷。どでかい看板の渡瀬温泉の前を過ぎて県道242号線のトンネルを越えて左折すると、そこが川湯温泉

 目を引くばかりの見事な清流である大塔川に目をやりながらゆっくりと進むと、笑ってしまうくらい湯気がもうもうと立ち込めてるところがある。そこが今回の最大の目的である仙人風呂。仙人風呂は11月から2月末までの間だけ大塔川に作られる冬季限定の露天温泉。しかも無料ときたもんだ。

 ここに入るために今までのすべての寒さを我慢してきたのだ。道端に四郎号を止めてお風呂グッズを手に、嬉々として河原に下りて行くと、ご先着だったらしいおじいちゃんとおばちゃん2人の3人組が出てくる。ちらっと見た感じ、とても温泉に浸かっていた雰囲気ではない。

 するとおじいちゃんが僕を見てひと言。「ごっつ熱ぅて入ってられへんで~」 すると一緒にいたおばちゃん2人も口をそろえて、「今日の仙人風呂は無理ですわ~」

( ゚Д゚)ナヌー!!!

 わざわざここまできて、熱いと言われたくらいで「はい、そうですか」とおめおめと引き下がれるか。お湯に手を突っ込んでみると、熱いことは熱いが入れそうにないほどでもない(ような気がする)。ここはファイト一発。やおら服を脱ぎかけていると、どこから来たのかいつの間にか知らんおっさんがぶつぶつ言いながらお湯に手を突っ込んでいて、そして脱衣所にいた僕に振り返って大声で、

「お兄ちゃん! 無理やで、この温度!」

 おっさん誰や。

bar「えー! イケるよぉ~(←勝手な予測)」
おっさん「無理無理。この温度で入ったら死ぬで」
bar「ここ入るためだけに来てんで~」
おっさん「まぁ待っとき。今から入れるようにしたるさかい」

 というと、このおっさん、ガニマタで川べりの方にひょこひょこ歩いて行ったかと思うと、何やら引っぱっている。何してるんやろと思った僕が近づいていくと、

おっさん「ほれ。ここに土管があるやろ。これが温泉とつながってんねん。この蓋を、ほれ、こうやって引っぱって川の水を温泉に引き込んだらええねん」
bar「なるへそ~。そしたら温泉の中に川の冷たい水が混ざって温度が下がって、入れるようになるってわけか」
おっさん「そうそう。毎朝誰かがせなあかんねんけど、今日はまだ誰もしてへんかったみたいやな。やから温度が異様に高かったんや」
bar「へ~。おっちゃん、やるなぁ~」
おっさん「さっきお兄ちゃん、入ろうとしてたやろ?」
bar「だって、ホンマにここに入るために朝から寒いの我慢して来たんやもん」
おっさん「それは嬉しいんやけどな。でもここの源泉、70度以上あるから」
bar「危うくゆでだこになるところやったわ……」
おっさん「あぶないあぶない」
bar「おっちゃん詳しいなぁ。ここらの観光協会の人?」
おっさん「近所に住んでるだけ」

 ただのおっさんかいな。聞けばほぼ毎日、朝のうちに入りにくるらしい。そら詳しいわけだ。やがてさっき帰っていったおじいちゃんとおばちゃんの3人組が戻ってき、おっさんと僕の合計5人で川の水が流れ込んでくるあたりにそろりそろりと入り、やたらと熱いお湯と、土管からごんごん流れ込んでくる冷たい川の水を手足を使って混ぜる混ぜる。忙しい露天温泉である。

 そのうち滋賀から来たというご夫婦と、岐阜から来たというご老人のご夫婦も巧みな作業員と化す。するとそのうち広い湯船のわずかな部分だけだが、手足でかき混ぜなくてものんびり入れるくらいの適温に。そうなればみんながそれぞれの旅の行程やら地元の話やらでひとしきり盛り上がる。

 湯船の底はふぞろいな石が苔むしていて、あたりには湯気が立ち込めてかすかな硫黄の匂い。空を見上げれば、見事に予報を裏切ってくれた青空。

 ちなみにこの仙人風呂は混浴の露天温泉であるので、水着を着用するのがマナーです。おっさんだけはフルチンだったが。

(つづく)