rider notes

ZR750 D5乗りの残しておきたいログ

西播磨|牡蠣三昧

プロローグ

 どのバイク雑誌でも晩秋から初冬の号で組まれる特集は、つまるところ「冬にバイクをどう乗るか」に収斂される。車とは違って体が外にむき出しなのだから、「極寒」「酷寒」の中どういうモチベーションでライダーにバイクに乗ってもらうかというのはバイク業界としても死活問題なわけだ。

 そして、その中身はたいてい「しっかり防寒すればむしろ温かい」というアパレル系(昨今でいえば電熱系ウェア)か、「あったかい温泉に入ろう」というツーリング系と相場は決まっている。

 アパレル系については特段意見は持たないのだが、ツーリング系について個人的な意見を言うながら、外はびっくりするくらい寒い(冬だから当たり前)わけであり、それはとりもなおさずちょっと気を緩めると瞬く間に湯冷めをしかねないということであり、そこへきてぼくはまさによく気を緩める人間であるため、基本的に真冬の日帰りツーリングで肩までお湯に体を沈めて温泉を満喫するということは極力しないようにしている。頭を洗った日にゃ、たとえドライヤーで万全に乾かしても湯冷め確定と言ってよい。そのくらいぼくは気の緩みまくった人間なのである。

 とすれば、どうやってこの真冬のツーリングのモチベーションを持つかという問題が残ってしまう。

 今日はなんとなく西へ向かうこととする。吹田から中国(山陽)道に乗るのが王道だが、久しぶりに湾岸線から乗り換えた神戸線で渋滞にハマってやろうじゃないか。

 しかし、走り出してそれほど時間も経っていないというのに見えてきた中島PAでおしっこ&缶コーヒー休憩。早速寒さに挫けている。

 ここでもまだ行き先を決めかねており、深江で神戸線に乗り換えて摩耶~京橋あたりの渋滞に見事にハマりながらもまだ迷っていた。タラタラと10Km/h程度で進んだかと思うと止まり、止まったかと思ったらのっそり進む……というクラッチを握る左手泣かせの渋滞だ。「もう左手が限界かも」と思った京橋あたりでようやく渋滞から解放されても、「このまま若宮でR2に下りて明石まで海沿いを走って明石焼きでも食うか」などと迷っていた。

 しかし、考えてみれば明石焼きは冬じゃなくても食べられる。そうか、冬しか食べられないモノ……

牡蠣だな」

 牡蠣といえば日生(岡山県備前市)。日生で牡蠣といえば「かきおこ(牡蠣のお好み焼き)」だ。

 そうと決まれば話は早い。月見山から第二神明~加古川バイパス~姫路バイパスと快晴の中、比較的順調に進み、たつの市でバイパスを下りて県道29号線で海に向かって南下。途中のたつの大橋のところでスイッチした県道(市道?)も、最近付けられたばかりなのか路面もよくてなかなかの快走路だった。

 ほどなくして「はりまシーサイドロード」と呼ばれるR250へ。こんな呼び名、昔からあったっけ。

「まぁいいか こんな気持ちが 命取り」……気をつけます

道の駅 みつ

 交通量も少なく、そのうちに海が見えてくるうえにほどよいカーブの連続で「シーサイドロード」の面目躍如のR250。やがて道の駅 みつが見えてきたので入ろうとしたのだが、駐車場の空き待ちの車が道に溢れているほどの満員御礼状態。それらの車の隙間を抜けて進むと、数台のバイクが二輪用の駐車スペースからはみ出して止めているほどたくさんのバイクがいた。

 今日って祝日? と思うほどの盛況ぶりだったが、数分待っていると数台のバイクが出発していったので、二輪用スペースの端っこに何とか止めることができた。

 それにしても本当にすごい人出だ。

 奈良の世界遺産お寺巡りではあまりの閑散ぶりに寂寥感すら感じてしまっていたので、このくらい賑わっている方がぼくとしては嬉しいくらいだ。

ええ天気や……

 グーグルマップで「日生」までの時間を検索してみると、なんとここからまだ1時間少しはかかるという。現時点で12時半を少し過ぎている。ここから1時間半としたら2時か……。

 ならば、この近くで牡蠣が食べられるところはないのか…と再び検索してみたら、ここから10分もかからない距離でヒットしたお店があったので早速向かうこととした。

 あとになって知ったのだが、ここはいろんなメディアに登場する有名な道の駅だったようだ。そりゃ混むはずだ。

www.totonaya.com

網元 桝政

 お目当てのお店は6~7台ほどしか止められない駐車スペースが店先というか道沿いにあるだけだった(離れたところに第二駐車場があるらしい)が、隅っこになんとか四郎号を止められた。

 早速お店に突撃。

店のにいちゃん「予約されてます?」
barちゃん「え。予約いるの?」
にいちゃん「していただいた方が…空きを調べますんでちょっと待っててください」

 と奥に引っ込んだと思ったらすぐに出てきて、

にいちゃん「相席になりますが1時半の席が空いてます」

 と言う。時計を見るとまだ30分近くあるので一瞬躊躇したが、ここを逃すと牡蠣が食えないと判断して待つことにした。ぼくが外で食べるためだけに待つというのは非常に珍しいとだけ言っておこう。

 「室津産牡蛎食べ放題」という勇ましいばかりの看板と、店の中からひたすら聞こえてくる牡蠣をジュージュー焼いている音とお客さんたちの歓声とも言える話し声と、強烈に漂ってくる焼き牡蠣の香ばしくもジューシーな匂い。待っている間も楽しみではあるのだが、おあずけを喰らっていると言えなくもないわけで、そういう意味では地獄だな。

 ヒマだったので「網元 桝政」さんの評価をスマホで見てみた。

「土日は多いしかなり人気のお店のため予約していった方が良い」
「席は要予約
予約は必ずして行かないとダメ」
「平日休んで行きましたが、予約必須
「平日だったので予約無しで行きましたが予約していった方が良い」
人気店だけに予約必須
「予約なしでも空いていれば入れてくれますが、予約したほうが無難
「平日でも予約は必須かなりの人気店

 えぇぇぇぇ……マジかいな……。知らなかったとはいえ、とんでもないお店を選んでしまったようだ。むしろ30分程度の待ち時間で入れるのは運がよかったのかもしれない、などと考えていた。

 穏やかな時間の流れる室津の町並みをぼんやりと見下ろしたりしていたら約束の時刻。

 1時半に予約をしていたらしい老夫婦と同じ横長のテーブルにはなったものの、個人的なスペースはしっかり確保できていた。各テーブルに焼き牡蠣用の炭焼きのスペースが取られていて、店員のお兄ちゃんが炭火の管理をしてくれている。店内はかなり温度が高かった。いいよ~。このくらいのほうがやる気が出るというものだ。

 荷物置き用のカゴの中に置かれていたメニューを見る。食べ放題以外にも定食があることはクチコミで読んで知っていた。

 食べ放題も心が揺らがなかったわけではないが、ここはぐっと堪えて殻付き定食と牡蛎クリームコロッケを注文。ほどなくして店員さんが「焼きと蒸し用の牡蠣です~」と持ってきたのは、お皿に乗った殻付きの牡蠣。

 焼き用と蒸し用? 目の前にある炭焼きの網、そして別の店員さんが持ってきた蒸し器、メニューの裏に書かれてあった「美味しい牡蠣の焼き方」「美味しい牡蠣の蒸し方」というレクチャー……ぼくは全てを悟った。

セルフだな!

 お好み焼きでも焼きそばでもそうだが、やっぱりセルフとなるとアドレナリンの分泌量が増加する。それはどうやらぼくだけではなさそうで、店内の他のお客さんたちもセフルというアトラクションにいかにも楽しげだ。

 そうこうしているうちに牡蠣フライやら牡蠣ごはんやら牡蠣汁やらが次々と運ばれてきて、テーブルの上のぼくのスペースには置ききれないほどになった。

湯気立つ牡蠣ごはんと牡蠣汁がたまらん

 焼いている牡蠣、蒸している牡蠣が次々とできあがっていくので、アツアツのチャンスを逃してはならない。

 ほくほくしながら口に運ぶと、牡蠣の身が舌の上でまったりと横たわり、歯でゆっくりと噛むと塩分とクリーミーさが一気に染み出してきて口全体に広がって、要するに美味いとしか形容しようがないということだ。牡蠣フライや牡蠣クリームコロッケは揚げ物になっているが衣の中身はぎゅっと甘味が閉じ込められていて食感がよく、牡蠣ごはんと牡蠣汁はもう牡蠣のエキスだけでできているんじゃないかと思えるほどの味わいだった。

www.murotsu-kaki.com

帰還

 このまま帰っても食いは…ちがった、悔いはないと思えるほど牡蠣を堪能したら、あとは帰るだけ。来た道を戻ってもよいのだが、せっかくなので相生までR250をのんびりと走っていくとする。

 海までの距離が本当に近い。道端に止まってガードレール越しに海面を覗き込むと、水は透き通っていて、穏やかな波にこちらまで揺られているような錯覚に陥る。まさに「シーサイドロード」の名に恥じぬ名道だな。

 相生からは山手に進路を取って山陽道へ。たいした渋滞にも遭わず一気走りだ。日ごろの行いである。

(おしまい)