四国|4.丸亀の夜

 コンクリートの剥がれも目立つガタガタの細い道を注意深く進み、その先の小さな踏切でJR予讃線を渡ると、再び県道21号線。ここから丸亀市内のお宿までは一直線だ。

いかにも産業道路っぽいので見どころナッシング

 20分もすればな~んとなく丸亀の中心街とおぼしきあたりに入る(地方都市ではだいたいこんな感じで街なかに入る)のだが、ホテルは見えているのになかなか駐車場に着けないという謎解き巨大迷路状態になる。あの方向ならこの路地を入れば……と曲がろうとすると一方通行だったりして、スムーズにいかない。

 そういえば事前にホテルに駐車場のことを尋ねた際の返信メールに「よく道に迷う方がいますので気をつけてお越しください」とあったことを思い出す。そのときは軽く鼻で笑いながら、「我は商都人なるぞ。たかが丸亀ごときで迷うはずがあるまい」などと高をくくっていたのだが、現実はこのザマだ。屈辱にまみれながらなおも挫けず野生の勘に従って細い道をくねくねと何度か曲がっていたら、わけがわからないうちに無事到着。

 そして、無事チェックイン。かろうじて商都人としてのプライドを保持できた。どう控えめに言っても盛大に迷ったのだが、結果オーライとしよう。

左:でっかいベッドは気分がいい
右:眺望ゼロだがかすかに飯野山が見えるのが救い

 チェックインのときにフロントからもらった案内チラシを見ていると、

 「無料きつねうどん」だと?! うどんは結局あのセルフうどんのお店以来食べてないから、これは食べねばなるまい。

 部屋でひと休みできたので、少し早いがホテルの周囲を散策しがてら晩ごはんのお店を物色しに出かけるとしよう。

ホテルの入り口にあったキリンの壁ドン。何かの暗示なのだろうか

 丸亀の町を歩くなんていつ以来だ? などと考えながら、なにはともあれ駅を目指す。ホテルの前から閑散としたアーケードが駅の方まで続いているのだが、

 昔はもう少し人も歩いていたように思ったけどなぁ、曜日や時間帯がたまたま合わなかっただけなのかな、などとのんびり歩いていると丸亀駅が見えてきた。

 なにはともあれ観光案内所だ。観光案内所は駅ナカか駅前と相場は決まっている。丸亀の場合は駅ナカだった。

 今やインターネットによる情報過多の時代。ちょっと検索すれば名物や名所ならスマホですぐに見つけられるんだろうから、そのうちこういうところもなくなっていっちゃうのかなぁ……なんて看板を見上げながらぼんやり考えていた。

 置かれてあるいくつかのパンフレットを見ていると、どうやら丸亀の名物は、今や骨付き鶏なのだそうだ。初耳だ。やはり、いつまでもうどんに依存しすぎるのは危ういとのリスクヘッジなのか。ほんまかよ、と何度もパンフレットを見返したのだが、ふと横を見ると、

 キャラまで作ってた……。パンフレットでも「骨付き鶏を出すお食事処リスト」なんてのもある。そこまで本腰を入れているなら乗ってやろうじゃないか。

 駅舎から広場のようになっている駅前に出てみると、夕陽が駅舎と駅前の広場を照らしていて眩しいくらいだった。下校時間帯のようで、高校生たち何人かずつのグループがそこかしこにたむろして楽しそうに話に興じている。地方だと次の電車までの時間がかなり空くこともあるから、それまで友だちと話し込んだりするんだろう。

 駅の横から伸びる道(県道204号線)で県道21号線まで歩いて、そこらをうろうろしてみたのだが、まだ日も十分残る時間帯だっただけに、わずかに道から見える看板以外、歓楽街らしさはほとんど感じられなかった。店のスタッフらしい人たちが開店の準備に追われて忙しそうにお店から出たり入ったりを繰り返していた。

 県道21号線沿いにのんびり歩いていると、とあるお店を発見。

 観光案内所から手にしているパンフレットにも載っている「りぶや」さん。スマホで見るとGoogleでの評価もほどほど。ということで入店。

 開店直後ということもあって、先客はカウンターの奥の紳士一人。ジョッキでぐびぐびビールをやっていた。ぼくはカウンターの入口近くに陣取り、早速メニューで骨付き鶏を確認。

 カラドリ=辛い鶏、アマドリ=甘い鶏、ワカ=若鶏、オヤ=親鶏、ということは察しがつく。オーダーを聞きに来た大将らしきおっちゃんに正直に「初めてなの❤」と告白すると、

「食べやすいのはワカ。若鶏やな。アマは甘辛いタレで、カラは塩とペッパーや。このあたりは好みやなぁ」

 と無愛想な外見のわりに丁寧に説明してくれた。素人のぼくだけに、ここは無難に「カラドリ(ワカ)」を注文。

 駅から持ってきたパンフレットには、「ビールがすすむ~」とまで書いている骨付き鶏。そりゃ想像するだけでビールがすすみそうだ。ただし、メニューには「注文後20分はかかります」。

 ツキダシをつつきながら先に持ってきてくれたビールをちびちびとやって待つか……と考えていたのだが、あっという間に飲み干してしまう。失態だ。失態ではあったが、このビールのためにクソ暑い中わざと何時間も何も飲まずに我慢していたのだ。しかたあるまい。

 腕時計を見ておかわりを頼むのも中途半端な時間だなぁと思いながらスマホをいじって待っていると、骨付き鶏やっと降臨。

 おぉ……これがかの有名な骨付き鶏か……としばし照り輝くその艷やかさに見とれていたら、

「ひっくり返して皮の方からつついたら骨からはがれやすいで」

 とツンデレ大将からのアドバイス。持ってきてくれたナイフとフォークで言われたとおりにやってみると、本当に骨からはがれて食べやすくなった。

 塩辛いのは苦手なのだが、そこまでしょっぱくもなく安心。結局ビールのおかわりも頼んでハフハフ言いながら鶏をつまみ、ささやかな晩餐を楽しめた。

 もうちょっと飲み食いしてもよかったかなと思いながらも、夜にきつねうどんが控えてるからこのくらいにしておかなきゃね。そして、帰りは少し遠回りしてでも歩いて腹ごなしをしておかねば。

 ちなみにお店の道向かいにはドン・キホーテがあり、その向こうにお城が見える。

 何の理由もなくなんとなくドンキを覗いたがやはり特に変わったものはなく、商店街の方に戻って、

 県道21号線沿いを歩いていたら、やっぱり見えるお城。

 そうそう、ホテルに無料ドリンクがあるとはいえ、いちいち一階まで下りるのもめんどくさいからお茶くらいは買っておこうと見つけたコンビニから出ても、真正面に、

 お城が見える。

 お城はもう飛ばしてもいいかなと思ってたのだが、こりゃ呼ばれてるな……。明日の朝イチで行くか。

 さっきバイクでぐるぐる迷った道をムダにぐるぐる歩いてきっちりカロリーを消費しながらホテルに帰還し、部屋でひとしきりゴロゴロしておく。

 ベッドに寝転んでいると眠気が襲ってきたので、意識があるうちに風呂に入っておこうと大浴場へ。晩ごはんの時間帯だっただけに貸切状態で温泉を満喫できた。

 ばっちり体を洗い、湯船で茹だるほどお湯に浸かり、今度は頭を洗い、そしてまた湯船でのぼせるほどお湯に浸かり……なんてことをやってたら徐々に疲れが取れてくるのが自分でもわかる。普段でも仕事でクタクタになって帰っても、風呂に入ると途端に元気になるから摩訶不思議だ。

 部屋に戻り、クーラーをフルパワーにして火照った体を冷ましながら、テレビを見たり愛する奥様と連絡を取り合ったりしていたら、刻限を過ぎていた!

bar「出遅れた! うどん行ってくるわ!」
愛する奥様「武運を祈る!」

 一階に行ってみると、やはり無料のきつねうどんにありつこうと数組がすでにスタンバっていた。

 10番の札を渡され待つこと5分。呼ばれて渡されたきつねうどん。見た感じはなーんの変哲もない。

 まぁ無料だしホテルが提供してくれるものだからそんなに「美味い!」なんてことはないよね……と正直みくびっていたのだが、いざ食べてみると……今日お昼に食べたお店の釜玉うどんとほぼ同じ! コシがあり、それでいて噛むほどにもっちり感が出てくる。ホテルが無料で提供するうどんでこのレベルなのか……。期待してなくてごめんなさい。

 本場さぬきうどんの潜在能力をまざまざと見せつけられた後、寝る前にチェックを兼ねてお顔を見ておこうと駐車場の四郎号のところに行ってみると、

 同じkawasakiが仲間入りをしていた。1台ぽっちでいるよりも2台いたほうが安心といえば安心だ(情緒的問題)。よかったよかった。

(つづく)