四国|8. これはもしや

 山田家さんはちょっとした高台にあるので、まずは名もなき道をゆるく下っていく。そして、「世界の中心で、愛をさけぶ」(セカチュー)の世界へ県道36号線を庵治町方面に右折。

 県道36号線じたいは、海が近いという特徴を除けば何の変哲もない普通の田舎道だ。セカチュー前半の、ごく普通の田舎の高校生の日常を描くにはもってこいのロケーションということだな。

 周囲に気を配りながらゆっくりと走っていたら、庵治石材センターというところに「ようこそ映画ロケの町庵治町へ*1」のでっかい看板を発見。

 一旦ここで止まって、看板を見ながらGoogleマップでマーキングしたら、さあ出発!

 ところで、映画「世界の中心で、愛をさけぶ」について。

 今からちょうど20年前の2004年に公開。実写邦画の興行収入としては2004年の最高を記録し、2024年6月現在の歴代でも9位となる大ヒットとなった。

 主演は大沢たかおと柴咲コウだが、森山未來と長澤まさみの出世作としても非常に有名なこの作品。「そんな昔の映画なんてしらねーよ」という方もいらっしゃるだろうから、まずはこちらをご覧いただいたほうが、この後が多少はわかりやすくなるかと。


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 これを見てるだけで、書いてる今でも泣けてきちゃうけど、早速行ってみよう!

 まずは桜八幡神社下の赤い欄干の橋。

 ここでは冒頭に大沢たかおがウォークマンでテープを聞く場面と、スクーターでこっそり通学していた森山未來に長澤まさみが声をかけて二人乗りしようとする場面で出てくる。向かいにある神社の階段に座って「ぼくは大沢たかおかもしれない」と思ってみたが、

 現実と向き合わねばならないのがオトナだ。

 次は、森山未來と長澤まさみが店頭に飾ってあるウォークマンをショーウィンドウ越しに覗き込む秋山電気店。現実は谷商店というお名前で寝具類を商っていらっしゃる。

 ご覧のとおり、ここは車では到底入れない幅の路地にあり、けっこう迷ってしまったので、見つけたときには嬉しかった。

 お次は王の下沖防波堤。

 序盤で長澤まさみと森山未來が二人きりで会話し、長澤まさみが「サク」と呼んだ防波堤。

左:朔太郎と亜紀が二人で話していたところ
右:亜紀が朔太郎を見上げて「サクと話したかったから♡」と言ったところ

 実際に行ってみるとわかるが、とても穏やかで静かな港と海が印象的だ。こういった空気感は映画にも表れていたように思う。ちなみに、この防波堤一帯は空き地のようになっているので、車で行っても止め放題。

 次は、専修院・あじみなと番所。

 ここは森山未來と長澤まさみの通う高校の國村晴子校長先生の葬儀が行われた場面で使われた。雨に濡れる長澤まさみを見ながら森山未來が初めて自分の恋心に気づいたという大切なシーンだ。ただしこの日は定休日だったのか、訪れた時間が営業外だったのか、入り口にチェーンが掛けられていて中に入れなかったのは残念。

 次は、森山未來が長澤まさみの父親である杉本哲太に殴られ、倒れた長澤まさみを乗せた杉本哲太の車を森山未來が裸足になって追いかける場面で使われた市道。ここから物語が急展開したなぁ。

 次は、市道を何度も何度も何度も何度も何度も何度も往復して、半ば諦めかけたときに登り口をやっと見つけてたどり着いた皇子神社。

 大きくなった朔太郎(大沢たかお)が訪ねた際には、ブランコの座るところは撤去されていたという設定になっていた(時間の経過をわかりやすくするためと思われる)が、今はちゃんとブランコが設置されていた。

左:朔太郎と亜紀が話しながら上がってくる石段
中:港と町を見下ろす。恋人たちの聖地として南京錠が多く掛けられている
右:王の下沖防波堤も見える

 他にも行ってみたいところがあるといえばあるのだが、それよりもどうしても行きたいところがあったのでそこを優先することにした。それは、庵治観光交流館。

 といってもわからないだろうから言い換えると、重蔵(山崎努)が営んでいた雨平寫眞館だ。

 ここだけは外側だけのセットが組まれて撮影されたそうだが、そのセットを外装にそのまま使い、きちんとした建物にして交流館として使っているそうだ。中は現在は喫茶店になっているので、是非ここでコーヒーを飲んでゆっくりしたかったのだ。

 入る前にふと横を見ると、何やら黒板が。

 「純愛の聖地」だけあって、ぼくと同じようにロケ地巡りをするために訪れた観光客たちの寄せ書きが所狭しと書かれている。

 んじゃぁ、ぼくもいっちょう爪痕を残しておくとするか!

2024.5.22 bar来た

 これから行かれる方がいれば、ご覧いただけると嬉しい。

 では雨平寫眞館に突撃。

 中はシンプルな造りだった。テーブルが4~5つ。奥には穏やかそうなマスター然とした男性がお一人。お客さんはぼく以外にはいなかった。平日だしね。(町なかでは明らかにロケ地巡りしてます風情の二人組の女の子を見かけた)

 山崎努演じる重蔵とこの雨平寫眞館は、物語の中では非常に大きな役割を担っていた。先述した國村校長は実は重蔵の初恋の相手であり、校長の若い頃の写真がここに飾られていたことがわかるのだが、その「若い頃の國村校長」はまだ売れる前の堀北真希だったとか、重蔵が豪雨で全身ずぶ濡れになって雨宿りをしていた柴咲コウを中に招き入れたりとか。

 森山未來と長澤まさみがタキシードとウエディングドレスで写真を撮るのもこの雨平寫眞館だった。そのときの緊張しつつもやるせない悔しさのようなものをにじませる森山未來、そして、覚悟を固めてはいるものの一瞬の幸せを感じている長澤まさみ。この二人の表情でよけい物語にのめり込んだのは言うまでもない。

 コーヒーをいただきながら、マスターの苦労話をいろいろとお聞きしていた。一番苦労したのは、10台くらいバイクを連ねてどでかい音を立てて来られたときだそうだ。ワンオペで10人対応は無理です。良い子はマネしちゃダメだぞ。

 向かいの蔵の中に映画のパネルなどが置かれてあるということなので寫眞館を失礼して行ってみることに。

 なぜぼくがこの映画をここまで好きなのか。

 まず、主人公たちがぼくと近似している。設定の年齢がぼくとほぼ同じであり、しかも、ぼく自身がここ庵治町と同じ瀬戸内のとある都市で育った(その地もロケ地になっている)。だから、映画の中に出てくるものの一つ一つ、BGMの一曲一曲だけでなく、映像から伝わってくる四国の田舎の空気感が肌でわかる。

 あとは、序盤に登場する宮藤官九郎がやっているカフェが、東京・芝浦にあるぼくが唯一理想的なライダーズカフェだと思っているスーパーレーサーであること。そして、ウルル(エアズロック)のあるオーストラリアはぼくと愛する奥様の新婚旅行の行き先だ。

 理屈じゃなくて、大げさに言うなら「これって運命?」というくらいにぼくの心の琴線に触れてくる。みんなにも、そのような映画や本がきっとあると思う。

帰ったらまた見て泣くとするか

 フェリーの出港には少しばかり時間は早いが、遅れでもしたらえらいことだ。ここらで退散とする。

 高松道・さぬき三木ICを目指して県道38号線を気分よく走り、

 無事にさぬき三木ICから高松道に乗ってのんびり走って1時間弱。

 少し早めではあったが、無事にフェリー乗り場に着弾。

 ターミナルの中で用を済ませて見てみると、ここにもやはりお二人の姿が。

 こないだの大垣芭蕉館にも「ブタ野郎がどーのーこーのー」というアニメとのコラボがあったし、結局そういう類なのだろうと今までぼくは高をくくっていた。買い忘れたお土産はないかなぁ……と思いながらコーナーを見て回っていたら、な、なんと、

 彼女たちにはれっきとした名前が付けられていたのだ! しかも、「高野きらら」は和歌山の高野山から、「阿波野まい」は徳島の旧国名・阿波の阿波おどりの「舞」から付けられているのは一目瞭然! どこかのアニメとのコラボとかではなく、南海フェリーのオリジナルキャラだったのだ……。みくびっていて申し訳ありませんでした。

無事乗船

 帰りの船中ではあまり眠ることができず、ちょくちょく甲板に出ていった。今日は昨日ほど晴れ間があったわけではなかったが、その分汗だくになることは少なくてよかった。

行きには晴れていた淡路島と沼島の島影もぼんやり

 そうこうしているうちに和歌山に着岸。

 和歌山市内を走りながら、ふと考えた。

 「ん? 今日回ったロケ地巡りって、俗に言う『聖地巡礼』ってやつじゃね?」

 アニメや映画で舞台となった土地を実際に訪れて回るという旅行形態の一つである「聖地巡礼」。もうすっかり市民権のある「聖地巡礼」を、今までぼくは「そんなに楽しいのか?」と半ば疑問に思っていたが、今ならはっきり言える。いや、声を大にして言おう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「聖地巡礼って、楽しいじゃないか!

(おしまい)

*1:現在は高松市と合併。