久しぶりに「冬にバイクで走って手の指やつま先が痛くなるほど凍えてみたい」というマゾのような発想で本日は出発。ただし本当のマゾではないので、たとえば行きや帰りだけで5時間も6時間も走らねばならないような状態は避けたい。よって遠足レベルのほどよく近場でありながら前々から四郎号と行ってみたいと思いながら行けていなかった奈良の世界遺産を巡ってみよう。要するに久しぶりの「明日やろうは馬鹿野郎シリーズ」とも言える。
もちろんぼく自身は行ったことはあるがそれは世界遺産なんて言葉も聞いたことのなかった35年前のことであり、このレベルになると心情的にも「行ったことあるけどない」というなんとも歯切れも居心地もよろしくない状態である。
朝の通勤ラッシュもそろそろ収まったであろう時刻になって出発。真冬はこのくらい待ってから出発したほうがバイクで走るには適している。案の定、近畿道では耐えきれないほどの寒さを感じることはなく、西名阪道でも渋滞がないまま、あっという間に法隆寺に到着。
懐かしすぎる松並木の奥には、聖徳太子ゆかりの世界最古の木造建築としても、日本で最初の世界遺産としても有名な法隆寺が控えている。逸る気持ちを抑えつつ、いったん四郎号を観光駐車場に止め(駐車代100円)、
平日バンザイと叫びたくなるほど人の少ない杉並木の参道を歩いていくと、まずは玄関にあたる南大門(国宝)がお出迎え。
南大門をくぐって幅広の砂利道を進むと、法隆寺の中心にあたる西院伽藍が見えてくる。
中門越しに顔を見せているのは五重塔。
中門横で拝観料(1500円)を払って回廊の中へ。
西院伽藍の回廊を出て聖霊院の前を通って大宝蔵院へ。その昔に来たときにはなかった建物だ。
この大宝蔵院は建物自体がすごいのではなく、中にあるものがえげつない。7世紀初~中期制作が通説で社会科の教科書や資料集にも載っていた百済観音、白鳳期制作と伝わり、悪い夢をいい夢に変えてくれるという夢違(ゆめたがえ)観音、子どもの守り神として有名ないわゆる「お地蔵さん」である地蔵菩薩、白鳳期制作の橘夫人厨子、そしてこれも社会科の資料集に載っていた玉虫厨子など、国宝国宝国宝国宝国宝国宝……「これでもか!」「これでもか!」と言わんばかりに次から次へと繰り出されてくる国宝の連打に目眩を覚えながらも久しぶりすぎてまじまじと見て堪能したら、西院伽藍の主だったところは終了。お次は東院伽藍へ行ってみよう。
遠いと思ったがのんびり歩いても数分の距離。思いの外、観光客も少なく、静かにゆっくりした時間を感じながら歩ける。待ち構えていたおっちゃんにチケットにパッチンしてもらったら(拝観料は西院伽藍と大宝蔵院と東院伽藍の三か所分)、すぐ目の前が東院伽藍の中心である夢殿。
本尊は聖徳太子の等身像とされる救世観音。明治時代にフェノロサが苦労して開帳したと伝わり、今でも秘仏とされる。夢殿自体は聖徳太子の活躍した飛鳥時代から時が進んだ天平時代の創建とされるが、飛鳥だろうが天平だろうが、どちらにせよ今から考えれば途方もないほど大昔から存在しているということだ。そう。ぼくは、長く存在しているということはそれだけの価値があるのではないかと考える人間だ。現実には人災や戦禍を免れるといった幸運もあったんだろうけど。
平日パワーを発揮して、35年ぶりの法隆寺は心穏やかに訪れることができた。
(つづく)