久留里の銘水
すぐわかるって言うてたのに……と思いつつ、でも「水汲むなら、そこ以外にもあっちこっちにあるから」というおばちゃんの言葉を信じ、そのまま駅の方へR410を戻ってみると、ポリタンクをいくつも並べて水を汲んでいる女性がお二人。
bar「こんちは~」(最初の挨拶は肝心)
千葉県北部からというその方は、「弟もバイクに乗ってましてね。その弟がここを見つけてきたんですよ」とのこと。ホームセンターで漏斗とホースも持参して、でっかいポリタンク4つを満タンにしてはりました。僕も合間にマイボトル(500ml)に汲ませてもらう。
すでに脳ミソが沸いてきそうな気配の漂う暑さ(途中の電光掲示板では27℃)の中、まず1回目汲ませてもらった500mlは一気ですっ!
というわけで一気に喉の渇きも潤ったところで、またもう1回汲ませてもらい、お礼を言ってそこを後にした。今日はこの水でコーヒーでも飲むぞ。
次なる目標は……決めてなかった。まぁいいや南に行ってやれと思い、そこからR410を南下。
このままひたすら南下すると野島崎。東に進むと大多喜。でも大多喜にはあんまし興味が沸かんのよねー。本多氏の本拠地でしょ。江戸大名にはどうも……。っていうか、この風景を見てたら、海も見たくなってきた。
R16から久留里までの県道24号線、R410は集落をつなぐ、といった旧街道の風情が漂う道だったが、久留里から南下したあたりは、今までよりもよけいに狭くなって、まるで「市道」みたいな雰囲気。
ところが、道路脇には立派な国道を表わす標識。
僕が止まって写真を撮ったりボーっとしている間、軽トラが2台通っただけの、と~ってものどかな国道。こういう道、けっこう好きです。そのうちR410は峠へ向かう山道になっていき、車は少しいてるものの、信号もほとんどないから快走。こりゃこの道にして正解だ。
大山千枚田
峠(トンネルになってます)を下って相変わらず快走を続けていると、県道34号線との交差点にGS発見。実は出発時点ですでにガソリンが半分という状態で、ここにきてぼちぼちリザーブ稼働かっ?! というところまできてしまってたのである。
もっと早めに入れときゃええやん、と思われるかもしれませんが、2007年5月からは再びオクタン価が上がり、街中のGSにおけるレギュラーは軒並みリッターあたり133~135円。いくらガソリンはカードで払う僕としても、安ければ安い方がよい(しかしこんな時代、ガソリンを水で薄めるようなGSがあっても不思議ではないような気もする)。
今まで133~135円のGSをパスしてきたのだが、なんとそこは137円。一番高いやん。でも背に腹は変えられん。やむなくおっさん一人でやってるようなそのGSに入って給油。
しかしながら、リッターで137円も払うんやから、ただガソリンを入れてもらうだけではもったいなさすぎる。
というわけで、
bar「僕、このあたり初めて来たんですけど、どっか見といた方がいいところとかありますか? いい眺めのところとか」
僕は今までこのセリフを何度口にしてきたことだろう。ある意味、bar的必殺文句である。もちろん初めて来たなんてのはウソなのだが罪はないんだし、初めてだったら…とハズレっぽい主観的推薦は避けられることが多いのも長年の勘から熟知している。
おっちゃん「いい眺めのところですかぁ……」
とタンクにガソリンを注ぎながらしばし考えていたらしく、給油し終わると、
おっちゃん「大山千枚田っていうところはどうです?」
bar「オオヤマセンマイダ?」
おっちゃん「ええ。棚田です」
bar「おー。棚田ですか」
おっちゃん「はい。なんでも、ほら。そうそう。棚田百選とか選ばれてるみたいですよ」
……ほほぅ。時間はまだ昼過ぎ。野島崎に行く前に、ちょろっと寄ってみるとするか! 教えられたとおり、県道34号線に右折し、3キロほど進むと案内看板を発見。そこから山側にたらたらと上っていくと……. ありました、見事な棚田。
昼下がりのうららかな陽だまりの中、遠くで鳴く鳥の声が響いている。駐車場もあることはあるのだが、観光客はちらほらといる程度。駐車場近くに作られた木の大きなテーブルと椅子はおばちゃん軍団の賑やかな昼食場と化しているが、そんな黄色い声も気にならないほどの空間の広さです。
時折サイクルライダーが通り、車もほとんど通らない道沿いに四郎号を止めて、僕も休憩。久留里で汲んだ冷たい水を飲みつつ、棚田を一望できる草むらでしばらく昼寝することにした。
Zzzzzz……
( ゚д゚)ハッ!!
確実に意識はどこかにいってましたが、目を覚まして時計を見ると1時間も経ってなかった。
再びR410に戻って、野島崎を目指してひたすら南下デス。
しつこいようですが、ホントにR410はええですよ。我ながらチョイス成功。R128を越えて千倉の集落に出ると、
海だー。このツーリングで初の海。ここでもサーファーがわんさか。風も強く、波もそこそこいいんかな。
野島崎灯台
青看板によるとR410から外れて海際の道を走っても野島崎に行けるみたいだったのでそちらの道にスイッチ! 海沿いの道には、一台のバイクが。見るとW650でした。そして、そのまま時速40キロ程度のkawasakiランデブー。
しかし、風が強い。海を見ても、波がざっぷんざっぷん。先々週の犬吠埼でもそうだったけど、太平洋はこんなもんなんかなと思ってたんですが…… 単に風が強いだけなんか?
そんなこんなで風にびゅんびゅん吹かれながら乙浜漁港を越えて海水浴場らしき砂浜を過ぎると、突如と現れる野島崎の集落。駅前のロータリーのように、広い芝生のスペースを丸く囲むように土産物屋さんやお食事処、民宿なんかが軒を連ねている。何台もの車も港沿いに路駐していたので、その合間を見つけて四郎号を止め、先に見える野島崎灯台へ向けて進軍!
太平洋に向かって突き出た岬であり、房総半島の最南端に立つ、この野島崎灯台は、明治2(1869)年にフランス人技師ウェルニーによって設計され、関東大震災によって一度倒壊したが、大正14(1925)年に再建されたとのこと。
この灯台は開国の歴史を飾る慶応2年に英米仏蘭の4ヶ国と結んだ改税約書(江戸条約)によって約定された8ヶ所の灯台の1つ(第1号は観音崎灯台)。高さ約30mの白亜の灯台の足元に立って仰ぎ見ると、さすがにでかい(当たり前か)。
見学料150円を支払って、先日の犬吠埼よりも広い螺旋階段を上がると……
景色がいいのはさておき、とにかく風がびゅーびゅー。いや、マジで飛ばされるんちゃうか。他のお客さんたちも、「ひゃー!」とか、挙句には「ぎゃー!」とか言うてるし。
ここでなぜかふと思った。
「そういや、俺、今日どこに寝るんやろ」
いったんそう思うと、こ~んなところがミョ~に目に付く。
やっぱりね、キャンプじゃなくても、できれば泊まるところをあらかじめ決めといた方が絶対にいいとわかってるんですよ、僕も。でも、どーもダメですな。あらかじめ決められてるのがどーもいかん。
もちろんこれは昔の放浪時代を含め、自分一人やからできることであって、誰かと一緒だったりしたらそういうわけにもいきません。もういい年やしね。
というわけやけど、まさか今からここで日没まで時間を潰してテントを張るっちゅーのもちょっと無理(じっとしてるのがあかん)やし、とりあえず灯台から下りて四郎号のところに戻り、次なる目標地点を、灯台つながりという単純な理由で洲崎灯台にロックオンし、走りだしたのである。
洲崎灯台
野島崎灯台は房総半島の最南端にあるわけなので、そこから洲崎灯台へはいよいよ内房に入ることになるのだが、R410から洲崎灯台へ向かう県道は、特に「房総フラワーライン」と呼ばれる、関東屈指のツーリングロード。
ただひたすらにまっすぐのびる県道257号線(フラワーライン)をずずーんと快走して進むと、やがて洲崎神社が見えてきて、そこからすぐが洲崎灯台のある集落。
といってもここはたとえば犬吠埼や野島崎あたりとは違い、それほど訪れる人がいないのか、一応駐車場(200円)なんかはあるものの、灯台へと続く道にもだ~れもいてません。ま、駐車場には数台の車があったから誰かはいてるんやろうけど。
でもまさかお金を払って四郎号を止めるつもりはさらさらなく、車一台通る気配のない灯台への上り口脇にさりげなく止めて、いざ! レッツ・ゴー。草いきれに満ちた細い階段を上っていくと、ありました。
足元はコンクリートの壁に囲まれた広い芝生の広場になっていて、すでに到着してたカップル2組がいちゃいちゃしてはりました。
カップルが不必要なくらいひっつきまくっている中、おっさん一人がずかずか入っていくのも気が引けたわけですが、せっかく来たんやからここで帰ってはもったいない。無人灯台なので中には上れないため、カップルとカップルの間を端っこまで歩いて海を望みます。
向こうには三浦半島? 伊豆半島? ぼんやりと影が見えます。さっきの野島崎灯台では、飛ばされるんちゃうかと思うほどの風だったけど、ここでは思ったほどもない。やっぱり野島崎は房総半島の最南端やから風に吹きさらしになってんかなー。
僕がここに来てからカップルは2組ともいつの間にかどこかに立ち去っていた。がははは。
しかし目の前の芝生広場……絶好のテン場やん。
確かにこのままここで日没を待ったところで、誰も来んやろうし……ここでテント張ったろかな…と思い、ふと時計を見てみると4時前。お。そろそろ真面目にテン場を探し始めてもいい時間や。さすがに灯台のところはやめておくことに。灯台下暗し、とも言いますでな。(はい?)
洲崎から海沿いの県道257号線を、海を左手に見ながら再び北に進む。やっぱしさっきまでざっぷんざっぷん飛沫を飛ばしてた野崎界隈とはちゃいます。海は静かでのどか。
館山城址
やっぱしこういう海の方が見慣れてます。そのままもうすぐ館山駅というところになってきて、突如山頂に見えてきたお城。
そういや、館山城を忘れてた。
館山城は「南総里見八犬伝」の里見氏ゆかりのお城(のはず)。久留里城にばかり気を取られて、すっかり館山城のことを忘れておりました。
館山城のふもとは公園として整備されていて、ベンチや広場、簡単な遊具なんかもあって、土曜の館山公園は家族連れで大賑わい。無料駐車場に四郎号を止め、親子連れが楽しそうに歓声を上げて遊んでいる遊具区域の横を通って、広くて長~い坂道を一人でえっちらおっちら上がる。しかし今日はどれくらいの坂道を上り下りしてるんやろか。
この時間になっても陽射しは多少ゆるやかになってきたものの、こう照らされて坂道を上っていると、体感的には気温はほとんど変わってへん。どうにかこうにか坂道を上りきると、館山城天守閣登場。
この天守閣は、創建当時の記録によると三層構造だったとのことだが、その外容の詳細が不明であるため、当時の財力や技術から判断して犬山城(愛知県)のそれを模したということだ。また、中は博物館分館になっていて「南総里見八犬伝」関連の展示物がずらりと並んでます。でもそれだけ。150円返せー。
というのは冗談としても、しかしここにもキレイな芝生広場があるなぁ…でも夜はさすがに怖そうやから、ここはやめとこ。
天守にいてやったおっちゃんはいいおっちゃんでした。天守閣からの帰り際、近辺の地図が壁に貼ってあったので、それを見ていると、
おっちゃん「これから、どちらに行かれるんですか?」
barちゃん「いや~…….どこでもいいんですけど」
おっちゃん「は?」
barちゃん「いや…その、北の方に行こうかなと思ってます」
おっちゃん「ん? 関西の方?」
barちゃん「はい」
おっちゃん「ほぅ……ご旅行ですか?」
bar「はぁ……まぁ」
ほんまにぼちぼちテント張る場所を決めんとあかん。四郎号に戻ってツーリングマップルとにらめっこ。このままR127に乗って内房を海沿いに走ったところで町続きやから野営するにも場所を見つけにくいかもしれん。ここは海沿いではなく、やや内陸を走る県道88号線で北上していけば、脇道にさえ入ったら簡単にテン場は見つかるんちゃうか……と目論み、いざ県道88号線へ~。
ところが沿道は集落から見渡す限りの田んぼの国へ。そのうち道は広いけどだんだん山の中に入っていって、脇道に入っていっても集落がありそうな雰囲気。そのうち右に左にくねくねと曲がったりしているうちに、大山千枚田へ向かった際に走った県道34号線にぶつかるところまで北上してました。
(つづく)