年末も近いある週末、「日本屈指のパワースポット」として有名な大神(おおみわ)神社へ、我が身をお祓いしていただくべく出撃することにした。聞けば愛する奥様の周囲でも、「毎年参詣している」、「子どもの頃からお詣りしている」、「お詣りならここしかない」、「お清めの砂を車にもかけた」、「御神体である三輪山にも登った」と、かなりの人気ぶりのようだ。
奈良の一之宮(格としては県下トップ)だけあって、大昔の放浪時代にぼくも行ったことがあるはずだが、スマホの検索画面に映し出されるバカでかい大鳥居すら全く記憶にない。というか、大鳥居なんて日本のあちらこちらにあるので、もう記憶もごちゃごちゃなのだ。
大神神社にほど近いところまでたどり着いた信号待ち。車窓からふと見えたビルには「三輪そうめん」の文字。

三輪そうめんといえば日本三大そうめんにも数えられる銘品。そうか。「大神」=「おおみわ」=「大三輪」か。となると、お昼ごはんはやはり三輪そうめんしかあるまいな。
ところで、伝承が「古事記」や「日本書紀」にも載っているところから日本最古の神社とも言われている大神神社。漢字も「大三輪」じゃなくて「大神」だ。
「俺が漢の中の漢だとすれば、大神神社は神社の中の神社というわけだな…」
そんなわけで、ぼくは漢の中の漢なので神社から一番遠い駐車場に車を止めたことに気づいても動揺などしない。

見上げるほど大きな一ノ鳥居をくぐって神社への参道をずんずん進んでいく。

辺りの様子ってこんな感じだったっけなぁ…と一生懸命思い出そうとするが覚えているようで覚えていないような。ところどころに現れる食事処やカフェの店先に出ていた看板にサッと目を通す。お昼ごはんの品定めである。
それにしても神社に向かう人の多いこと。前日までの雨予報から一転、小春日和を思わせる好天にも恵まれて、いい週末だ。陽の光に空気も暖められてきて、歩を進めるにつれて肌寒さも和らいでいく。
やがて二ノ鳥居が見えてきた。いよいよ境内だ。

二ノ鳥居の奥に、好天とは対照的な鬱蒼とした木々に包まれる参道の入口が見える。奥に視線を辿ろうとしてもあまりの暗さに視点が合わず、まっすぐにどこまでも吸い込まれていくようだ。

中に入って足を進めるにつれて、さっきまでの穏やかな気配が消え、徐々に冷ややかな空気に包まれる感覚になる。なんだコレは……そして、ふと気づいた。
コレが大神神社の「気」なのか?

参道の細かな砂利を一歩一歩踏みしめながら進み、やがて見えてきた大きな拝殿。人の列に並んでお詣りを済ませ、今年も生き延びることのできた御礼詣りが完了。
そして、ふと横を見るとおみくじ箱がある。

今年の、いや、災難続きだったここ三年の総決算としておみくじでも引いてみるか! 意を決してジャラジャラやってみると、出てきたのは「42」番。なんとなくイヤ〜な予感がする…と思いながら御札を受け取ってみると、

どこをどう読んでもことごとく打ちのめしてくるじゃないかぁ……。しかし、胆力を求められるのはこういう時だ。くじごときに負けてたまるか。
もう一回引いてやろうかと思ったが、ここは気を取り直し、凄まじい気に満ち満ちている大神神社の中でも随一のパワースポットとされる狭井神社へ進んでみることにした。

今から三輪山へ登拝する方々も控えていた狭井神社は、拝殿の裏に「薬井戸」があり、病気平癒の御神水が湧いている。ぼくの場合は「病気」ではないのだが、ここまできたら飲まないではおれまい。
ふと拝殿の横をみると、「おみくじ」の文字。

先ほどよりも念入りにジャラジャラジャラジャラジャラジャラジャラジャラ……と箱の中をシャッフルして出てきた番号は「33」。

とりあえず42番の厄を大神神社に預けることができたし、これで心置きなく大神神社を後にすることができる。
再び二ノ鳥居まで戻ってきて参道を抜けると、ずっと身体を覆っていた「気」が、あったかな周囲の陽の光と入れ替わるようにスーッと消えていくのがわかった。

ここで時計はお昼直前。「三輪そうめん」で検索すると、なかなか評価の良いお店が二ノ鳥居のすぐ近くにあることがわかったので行ってみる。覗いてみたら意外と広い店内はまだ半分も埋まっていなかったので即決。

大神神社の「気」を浴び続けていたからか、少し肌寒さが残っていたこともあったので、ここはにゅうめん(と柿の葉寿司セット)を注文。

めちゃくちゃ優しい味のおだしに、えのき茸もワカメも甘く煮た椎茸も入っていたにゅうめんは満足度が高い。柿の葉寿司ともども「奈良の銘品」を堪能できたのはうれしかった。
となれば、愛する奥様へのお土産も三輪そうめん一択。二ノ鳥居のすぐ横にある森栄進堂さんでゲットだ。


すっかり満たされたおなかを抱えつつ、眩しいくらい晴れた表参道を駐車場まで歩きながら、大神神社の「気」を思い出していた。あの「気」は明らかに理屈じゃなかった。人間の力を超えたところにあるのだ。要するに、大神神社は宇宙だったのである。
なんてことを考えたかどうかは忘れたが、まだ陽も高い。この後どうするかな。
(つづき)